パワー・アナライザによる計測 AC入力スイッチング電源
投稿日 2023/06/05
横河電機のパワー・アナライザ WT2030
エレメント1 電灯線で60W電球を負荷として計測中
左からディスプレイA AC電圧 (101.22Vrms)
ディスプレイB AC電流 (0.524Arms)
ディスプレイC 力率 (0.9999)
ディスプレイD 有効電力 (53.0W)
横河電機のパワー・アナライザ(パワー・メーター) WT2030 を入手しましたので、さっそくパワー計測の勉強を兼ねて計測実験をしてみました。計測に入る前に、パワー・アナライザとは何者か。WT2030はどのような物か。という点を整理しておきます。
パワー・アナライザとは、直/交流回路における計測に利用され、電圧、電流、電力、力率、周波数、効率などを計測するための計測器です。これらはもちろん個々の電圧計や電流計などを使えば計測/計算できるものですが、実験室でこれらの計測器を多数並べて、結線し、パラメーターを変えるたびに値を読み取るのは、とても大変な作業です。直流はまだよいのですが、交流では同時に計測した実効電圧と実効電流から電力(有効、皮相、無効電力)を計算しないと意味がありませんので、目視でやっているのであれば高い精度は期待できません。
その点、パワー・アナライザは真の実効電圧、実効電流、ピーク電圧、ピーク電流、周波数等を計測し、それらから有効電力、皮相電力、無効電力、力率等を即座に計算して表示してくれます。また、指定時間から指定時間の間の電力等を積算してくれる機能もあります。W2030はデジタル表示のみですが、同時に波形表示が行えるものもあります。
また高調波解析も行えるようになっており、50次程度の高調波の値、含有率、グラフ表示が行えるものもあります。また照明機器などで問題になる電圧変動/フリッカの計測が行えたりもします。
更に、パソコン等からコントロール/計測するためのRC-232またはGPIB等の通信機能があり、プログラムによって自動計測等を行えるようになっています。内蔵プリンタはその場で計測結果を記録するのに便利ですし、外付けのプリンタも接続できるようになっている場合もあります。
計測においては、複数のエレメントが必要な場合があります。エレメントとは電圧と電流を計測するモジュールのことで、計測対象とする電源の出力だけを計測する場合は1エレメント。電源の入力側と出力側(AC入力スイッチング電源であれば入力側のAC100Vと、出力側のDC)を同時に計測する場合や、単相三線での計測は2エレメント。三相三線を計測するためには3エレメント必要です。何エレメント装備しているかはそのパワー・アナライザによります。オプションになっている場合もあります。(物によってはDCが計測できないものもあります。その場合、計測可能周波数範囲が40Hzから20KHzという具合に、DCの記載がありません。)
今回使用する横河電機のWT2030 型名253102 SUFIX C1/1/M/B5/HRM/DA/FA デジタル・パワー・メーターの主な仕様は、
装備
3エレメント
4ディスプレイ(電圧、電流、電力、力率等を同時表示)
GPIB(C1) IEEE-488 1978
日本仕様 100VAC 3Pプラグ(1/M)
プリンタ(B5) プリント項目設定可
高調波計測機能(HRM) PLL同期方式 最大50次 (測定値、含有率、グラフ表示(プリンタ)、THD、位相角)
DA出力機能(DA)
電圧変動/フリッカ計測機能(FA)
測定カテゴリ CAT II
電圧入力 抵抗分圧方式 レンジ 10/15/30/60/100/150/300/600V/AUTO (RMS/MEAN/DC)
電流入力 シャント抵抗方式 レンジ 1/2/5/10/20/30A/AUTO (RMS/MEAN/DC)
外部シャント入力 50m/100m/20mV (スケーリング機能あり)
演算機能(有効電力、皮相電力、無効電力、力率、位相角、効率etc)
MATH機能(電力和、電力ロス)
アベレージング機能 (指数化平均、移動平均)
NULL機能
積算機能 (タイマー設定可)
計器損失 電圧入力 2MΩ 15pF、電流入力 6mΩ 0.07μH
測定周波数範囲 DC, 2Hz~500KHz (レシプロカル) DCの計測が可能
CF(クレスト・ファクタ) 3 or 6
データ更新周期 0.25s/0.5s/2.0s
ライン・フィルタ
HOLD機能(HOLD中更新機能)
時計内蔵
安全規格 EN61010-1
計測対象 某有名メーカーのAC入力スイッチング電源
上 (A) AC100V入力 出力DC24V 4.5A 108W Effi:85%typ pf:- 1985 ~ 2005年
下 (B) AC100V入力 出力DC24V 20A 480W Efii:86%typ PF:0.99 2003 ~
今回の計測対象は上の写真にある電源です。同じメーカーの「AC入力のスイッチング電源」で、出力電圧が同じ(DC 24V)で、出力電流は上が4.5A、下の大きい方が20Aです。
(A) AC100V入力 DC24V MAX4.5A 108W Effi:85%typ pf:- 1985 ~ 2005年 生産終了 (写真上)
(B) AC100V入力 DC24V MAX20A 480W Efii:86%typ pf:0.99typ 2003 ~ 販売中 (写真下)
(A)はすでに生産終了になっている古い電源です。(B)はまだ販売されている、比較的設計が新しい電源です。(B)のカタログには「高調波電流規制対応(IEC61000-3-2 適合)」と明記されており、力率(PF)が0.99typとなっています。つまり最近のスイッチング電源には力率改善回路が内蔵されており、ACライン上の他の機器に影響を及ぼさないように配慮されています。このためこの新旧のスイッチング電源のPFの比較と入力電流波形の観測は興味のあるところです。
入力のAC100Vは電灯線をそのまま使っています。出力側の負荷には電子負荷を使用しました。(A)の電源には出力電圧センス機能がありますが、今回の計測では使用していません。
電源の計測項目としては、お決まりの、
①入力電圧 VS 出力電圧 (負荷一定)
②出力電流 VS 出力電圧、力率(PF)、効率 (入力AC100V一定)
③出力電流 VS リプル電圧、ノイズ
がありますが、①は当局の設備では入力電圧(AC100V)を可変できないので計測できません。③はパワー・アナライザーを使う計測ではないので、今回は除外しました。②は一般的な負荷特性で無負荷(0A)から電源の最大出力電流までの範囲を計測しました。加えて入力側の力率を計測しました。効率はエケセル上で計算しました。②の計測は、高調波電流の含有率、スペクトラムを無負荷、中間負荷、最大負荷で計測しました。同時に入力電圧、入力電流の波形を観測しました。なお、AC100Vライン、計測対象物、電子負荷とパワー・アナライザの距離はそれぞれ0.5mくらいありますが、それによる電圧降下で発生する誤差は考慮していません。AC100Vは念のため絶縁トランスを通してますが、ACラインフィルターはありません。入力電流の波形は絶縁トランスの2次側でCT(カレント・トランス)を通して電圧に変換して観測しています。このCTはU_RDのCTL-6-S-Zを100Ωで使用し、オシロで波形を観測しています。
(A) AC100V入力 DC24V MAX4.5A スイッチング電源
このスイッチング電源は1985年販売開始の古い電源です。すでに生産/販売は終了しています。この手のスイッチング電源は計装用として多く用いられており、ラック内でDINレールなどで取付られてPLCなどとともに並んでいるのを見かけます。
左 負荷電流 0から4.5Aにおける出力電圧(V)と入力電流(A)
右 負荷電流 0から4.5Aにおける力率(PF)と効率(EFI)
この電源の最大負荷4.5Aまで0Aから0.1Aステップで計測しました。負荷電流 4.5A時、出力電圧23.64Vでした。これには結線での電圧降下も含まれています。そのときの入力側(AC100V)の電流は1.85Aでした。力率は負荷電流が1Aから4.5Aの間平均0.63でした。この力率の悪さは下の入力電流波形で納得できます。効率は負荷電流が1Aから4.5Aの間の平均が83.64%でした。つまりこの電源は4.5Aの負荷をかけると23.64Vに電圧降下し、効率約84%で、AC100V側に約1.85A流れます。
負荷電流 0A(無負荷)における入力電流波形
CTの読み取り電圧 13.2mVrmsは約0.12mA
パワーメーターの表示 0.0A 有効電力 2.5mW PF -
この2.5mWはいわゆる待機電力
負荷電流 2Aにおける入力電流波形
CTの読み取り電圧 112.8mVrmsは約0.95A
パワーメーターの表示 0.921A 有効電力 58.7W PF 0.6066
負荷電流 4.5Aにおける入力電流波形
CTの読み取り電圧 227.6mVrmsは約1.9A
パワーメーターの表示 1.846A 有効電力128.2W PF 0.6680
入力電流波形はCT(カレント・トランス) U_RD CTL-6-S-Zに100Ωをつないで観測しています。このCTの出力電圧(Vrms) - 貫通電流(Arms)特性グラフはネットのCTL-Zシリーズのカタログに記載されています。上の波形より、負荷電流0A(無負荷)時でも若干入力電流が流れています。このときの有効電力2.5mWは待機電力と言えます。力率(PF)は負荷2Aで0.6066、4.5Aで0.6680と悪い値です。この波形は典型的なコンデンサーインプットの平滑回路のものですので、力率改善についての考慮はされていません。まだ力率改善が規格化される前の電源のようです。
負荷電流 0A(無負荷)における高調波の含有率とスペクトラム
基本波の電流値 0.023Aに対して第3高調波 0.023A 99.17% 第5高調波 0.022A 95.95%
負荷電流 2Aにおける高調波の含有率とスペクトラム
基本波の電流値 0.2192Aに対して第3高調波 0.1286A 50.65% 第5高調波 0.0762A 34.74%
負荷電流 4.5Aにおける高調波の含有率とスペクトラム
基本波の電流値 1.250Aに対して第3高調波 1.047A 83.26% 第5高調波 0.701A 55.71%
この電源は前述のように力率改善が規格化される前に設計された電源のようです。このため力率改善回路は内臓されておらず力率(PF)の平均は0.63と悪い値です。前述の入力電流波形のように、パルス的な歪んだ入力電流波形となっています。このため多くの高調波を含んでいます。今回使用したパワー・アナライザは最大50次までの高調波をFFT解析で求めることができます。上記は0A, 2A, 4.5Aの各負荷における高調波の電流値、含有率(基本波に対するその次数の高調波電流の割合)と、グラフ表示です。グラフ表示が直感的にわかりやすいと思いますが、観測波形は上下対象ですので偶数次の高調波はほとんど出ていません。最大負荷4.5Aで第3高調波が83.26%、第5高調波が55.71%と高い値です。
(B) AC100V入力 DC24V MAX20A スイッチング電源
このスイッチング電源は比較的新しいもので、カタログには「高調波電流規制対応(IEC61000-3-2 適合)」と明記されており、PF(力率)が0.99typとなっています。現在の規制に沿って設計されている電源と言えそうです。
左 負荷電流 0から10Aにおける出力電圧(V)と入力電流(A)
右 負荷電流 0から10Aにおける力率(PF)と効率(EFI)
計測環境の問題で最大負荷電流は10Aまでとしています。負荷電流 10A時、出力電圧22.88Vでした。これには結線での電圧降下も含まれています。そのときの入力側(AC100V)の電流は2.96Aでした。力率は負荷電流が7Aから10Aの間の平均は0.97でした。効率は負荷電流が7Aから10Aの間の平均は76.93%でした。つまりこの電源は10Aの負荷をかけると22.88Vに電圧降下し、効率約77%で、AC100V側に約3A流れます。
負荷電流 0A(無負荷)における入力電流波形
CTの読み取り電圧 38.0mVrmsは約0.3A
パワーメーターの表示 0.2778A 有効電力 22.7W PF 0.7837
この22.7Wはいわゆる待機電力
負荷電流 5Aにおける入力電流波形
CTの読み取り電圧 208.8mVrmsは約1.6A
パワーメーターの表示 1.7161A 有効電力165.68W PF 0.9452
負荷電流 10Aにおける入力電流波形
CTの読み取り電圧 367.6mVrmsは約3A
パワーメーターの表示 3.014A 有効電力294.0W PF 0.9737
入力電流波形はCT(カレント・トランス) U_RD CTL-6-S-Zに100Ωをつないで観測しています。このCTの出力電圧(Vrms) - 貫通電流(Arms)特性グラフはネットのCTL-Zシリーズのカタログに記載されています。上の波形より、負荷電流0A(無負荷)時でも若干入力電流が流れています。このときの有効電力22.7Wは待機電力と言えます。力率(PF)は0.7837でした。5A、10Aと負荷がかかるに従い力率(PF)が0.9452、0.9737とよくなります。波形のように力率改善回路が効いているようです。(カタログ値は0.99) 最近の電源製品の傾向として待機電力と力率改善は規格順守という観点で重要な項目です。
負荷電流 0Aにおける高調波の含有率とスペクトラム
基本波の電流値 0.2192Aに対して第3高調波 0.1286A 50.65% 第5高調波 0.0762A 34.74%
負荷電流 5Aにおける高調波の含有率とスペクトラム
基本波の電流値 1.6259Aに対して第3高調波 0.5110A 31.43% 第5高調波 0.1457A 0.96%
負荷電流 10Aにおける高調波の含有率とスペクトラム
基本波の電流値 2.9367Aに対して第3高調波 0.5431A 18.49% 第5高調波 0.3284A 11.18%
この電源は前述のように力率改善回路が内蔵されており、ある程度の負荷の場合力率(PF)は0.9以上となっています。しかし、前述の入力電流波形のように、実際には電流波形は歪んでいます。これは高調波を含んでいることを意味します。今回使用したパワー・アナライザは最大50次までの高調波をFFT解析で求めることができます。上記は0A, 5A, 10Aの各負荷における高調波の電流値、含有率(基本波に対するその次数の高調波電流の割合)と、グラフ表示です。グラフ表示が直感的にわかりやすいと思いますが、観測波形は上下対象ですので偶数次の高調波はほとんど出ていません。
日本における高調波電流抑制の規格はJIS C61000-3-2があります。この規格では今回のような電源装置の場合、各次数の最大許容高調波電流は第3高調波が2.3A以下。第5高調波が1.14A以下..... と具体的なアンペア数値として記載されています。今回の計測は,負荷電流10Aまでしか計測していませんが、10Aの場合で見る限り、基本波2.9367Aに対して第3高調波が0.5431A 10.49%。第5高調波が0.3284A 11.10%となっており、いずれも規格の範囲内となっています。(最大負荷20Aで計測すべきですが、今回は行っていません)
(JF1VRR)