電子負荷の試作 IGBT使用で100W
投稿日 2023/06/12
IGBT GT50J121 2個使用の電子負荷
5V 20A 100Wで運転中
電子負荷はパワエレの実験には必須アイテムです。当局は1000Wの電子負荷を所有しているので、十分事足りていますが、いつ故障するかも知れません。いざというときに困らないよう予備の電子負荷があれば安心です。そんな訳で、まずは手持ちの部品で試作してみることにしました。
今回は在庫のIGBT TOSHIBA GT50J121を使用しました。このIGBTは、240Wのもので、スペックから連続使用の安全領域を見ると1個 50Wほどで使えそうです。IGBTはバイポーラのトランジスタのベースをFETのゲートにした形になっており、ゲートによる電圧制御ですので、トランジスタのべースのように電流は流れず、簡単なドライブ回路で使えそうです。
ヒートシンクにIGBT GT50J121 2個
0.1Ω 10W シャント抵抗
OPアンプはLM358N の定電流回路
回路はオーソドックスなOPアンプを使用した定電流回路です。2個のGT50J121を別々のOPアンプで制御しています。OPアンプには単電源2回路入り8ピンDIPのLM358Nを使用しました。電流の設定はマイコンとDAコンバーターでかっこよく制御したいところですが、今回は10回転のポテンショメーターで済ませました。
IGBT GT50J121 使用 4.2V ~ 50V 100W 電子負荷の回路
それぞれのIGBTを専用のOPアンプで制御
IGBT 2個は大型のヒートシンクに取付け、下からファンで強制空冷しています。電流検出用のシャント抵抗は0.1Ω 10Wを使用し、ヒートシンクに密着させました。100Wの電子負荷は5Vで20A流すので、各シャント抵抗には10A流れます。よってI^2 x R = 10^2 x 0.1 = 10Wですので20Wくらいのもので余裕を持ちたいところですが、在庫が10Wしかありませんでした。(実験では20Aでもヒートシンクへの放熱もあってか、あまり発熱しませんでした。)
シャント抵抗に発生した電圧をOPアンプのー側に入れます。シャント抵抗に1Aの電流が流れたとき、0.1Vが。最大10Aのとき1Vが発生します。+側はリファレンス電圧として電源の12Vを100KΩと10KΩ ポテンショメーターで分圧した電圧を入れます。12V / 110KΩ = 0.000109A 約0.0001A 流れるので、10KΩ ポテンショメーターの両端には0Vから約1Vが発生します。つまり各IGBTに流れる電流を10Aまで制御できます。
シャント抵抗からのフィードバックとポテンショメーターで設定した電圧との演算をOPアンプで行い、両者が等しくなるように電圧を出力します。それをIGBTのゲートに加えます。このゲート電圧(Vge)は5Vから7Vくらいが必要なので、+12Vの単電源OPアンプを使います。今回は在庫のLM358Nを使用しました。
IGBT GT50J121の最大定格
データーシートより抜粋
IGBT GT50J121の特性表
データーシートより抜粋
IGBT GT50J121の安全使用領域 IGBT GT50J121のVge - Ic特性
今回使用したIGBT GT50J121は、最大定格600V 50Aですが、これは高速にスイッチングした場合の許容値であって、今回の電子負荷のような連続使用での話ではありません。このため連続使用(CONTINUOUS)での安全使用領域(SOA)で使用しなければなりません。上図の赤でプロットした点は50Wで使用する場合です。5V/10A、10V/5A、20V/2.5A、30V/1.67A、40V/125A、50V/1Aの各50Wの点です。一応いずれも連続使用許容領域に入っていますが、これはあくまでも25℃の場合ですので、発熱すれば話は違ってきます。また、同じ50Wでも電圧が高くなるほど余裕がないことが分かります。(実際、電流値は同じでも、電圧が高い方が発熱が多い) 高価なIGBTを昇天させることがないよう十分ディレーティングして使いたいところですが、その辺りはアマチュア的いい加減さが優先です。
バッテリの負荷試験のように電流を流し続けるような場合は、12Vでは4A程度。24Vでは2A程度までと考えた方がよさそうです。また、スイッチング電源などの試験では、発熱の多い高い電圧から先に計測し、徐々に低い電圧に落としていく形の計測がよさそうです。
IGBTは電圧制御素子ですから、上記 Vge - Ic特性のように、ゲートにかける電圧(Vge)でIcを制御します。グラフよりVgeには5V前後の電圧が必要です。赤円内のほんのわずかな領域を使うことになります。下記は5V 10Aまでと、10V 5AまでのVge 実測値です。
印加電圧5V と10Vの場合のVge
5V 10V
1A 6,15V 6.05V
2A 6.39V 6.24V
3A 6.57V 6.38V
4A 6.72V 6.48V
5A 6.88V 6.57V
6A 7.04V
7A 7.20V
8A 7.36V
9A 7.54V
10A 7.72V
このVgeは印加電圧によって、また個体によっても差があります。
IGBTの場合はMOSFETと同じ電圧制御なので、このような大きなIGBTでもゲートドライブ回路は簡単に済ませられます。電流アンプも必要ありません。電子負荷の場合は高速でスイッチングする訳ではないし、ゲートに電流はほとんど流れ込みません。OPアンプの入力側の10KΩと、出力側に入っている100KΩは、過電圧の保護用です。発振については考慮してませんが、IGBTのゲートの入力容量Ciesは なんと7900pFもありますが、実験では発振等の問題は無いので対策はしていません。電流値調整時の振動も観測されません。
放熱対策は適当です。150 x 125 x 50mmのヒートシンクをファンで強制空冷しています。以下は各電圧/電流でのヒートシンクの温度です。(あまり正確ではありません。)
室温 25℃ 各設定で10分間運転後
5V 10A 50W 37℃
5V 20A 100W 40℃
10V 4A 40W 38℃
10V 6A 60W 43℃
20V 4A 80W 52℃
20V 6A 120W 62℃
30V 2A 60W 44℃
30V 4A 120W 64℃
40V 2A 80W 53℃
50V 2A 100W 58℃
この電子負荷はIGBT当たり50Wとし、2個で計100Wとしました。バッテリの放電テストや、スイッチングレギュレーター試験の負荷として実用的と思います。簡単ですのでひとつ作っておいてもよいかと思います。今回はIGBTを使いましたがパワーMOSFETでも作れます。入手性がよく安いパワーMOSFETを使い、同じ回路を多数並列にすればもっと大容量のものが作れます。
電子負荷にはいくつか安全装置が必要です。今回のように手回しのポテンショメーターで電流設定する方法では、うっかり前回の設定のまま(ある程度ポテンショメーターが回った位置で)、いきなり大電流を流してしまう事故が起きそうです。使い終わたら必ず0Aに戻しておくようにします。
また、今回は最大100W(5V 20A または50V 2A)の電子負荷ですが、50Vを超える電圧を印加したり、20Aを超える電流を流すとIGBTの破壊につながります。このため印加電圧と電流を監視し、電力が最大を超えないようにするリミッターが必要です。
ヒートシンクの温度も監視して、高温になればシャットダウンするなどの保護機構も必要です。
バッテリーの放電試験のように、試験を開始したあと長時間放置するようなケースでは、バッテリーの過放電を防ぐため、電圧が設定値まで下がったら、自動的に電流を切る機能が必要です。
様々な電圧や電流値を順次切り替えて試験するような場合は、パソコン等からリモートで操作できると便利です。
以上のような機能を実現するにはマイコン制御が必要です。マイコンとADコンバーターで印加電圧と電流値を監視し、DAコンバーターでIGBTを制御すれば解決できます。またGPIB等の通信手段を組み込めばパソコンから制御できます。時間があれば組み込んでみたいと思っています。
(JF1VRR)