LTC3119使用の昇降圧コンバーター
投稿日 2021/09/04
以前、太陽光パネルと充電コントローラを購入し、バッテリの充電を行っていましたが、コントローラーが壊れてそのままになっています。このとき購入した太陽光パネルの性能テストは以下のページをご参照ください。
なんとか再び充電環境を整えたいということで検討していたのですが、アナログデバイセズ社のLTC3119がMPPC機能を搭載したDC-DCコンバーターであることを発見し、それをモジュール化したストロベリーリナックスの「LTC3119 可変型昇降圧DC-DCコンバーターモジュール(0.8V~17V)」を購入して実用可能か試してみることにしました。価格は送料等込みで3515円でした。今回はその事前調査というか、モジュールの性能評価です。
LT3119 標準応用例
Data Sheetより
LT3119は最大18V 5A出力の同期整流式昇降圧コンバーターです。入力電圧は2.5Vから18Vで、出力短絡保護、熱過負荷保護が付いています。動作モードはバーストモードとPWMモードがあります。スイッチング周波数は400KHzから2MHzと広範囲です。ここまではよくある範囲ですが、特筆すべきは、LTC3119には最大電力点制御(MPPC)が付いている点です。つまり太陽光パネルを効率よく扱えるということになります。
LTC3119の特徴
- 入力電圧範囲:2.5V~18V n
- 起動後に入力電圧が250mVまで低下して動作
- 出力電圧範囲:0.8V~18V
- 降圧モードでの出力電流(VIN > 6V):5A
- 出力電流(VIN = 3.6V、VOUT = 5V):3A
- プログラム可能なスイッチング周波数:400kHz~2MHz
- 最大2MHzの外部クロックと同期可能
- 高精度のRUNコンパレータしきい値
- Burst Mode®動作、無負荷時のIQ = 35μA
- 超低ノイズの昇降圧PWM
- 電流モード制御 n 最大電力点制御
- パワーグッド・インジケータ
- 内部ソフトスタート
- 28ピン(4mm×5mm)QFNパッケージおよび TSSOPパッケージ
(LTYC3119データーシートより)
今回使用したストロベリーリナックスの「LTC3119 可変型昇降圧DC-DCコンバーターモジュール(0.8V~17V)」は、LTC3119のスペックそのままですが、スイッチング周波数を約1MHzに設定しているようです。モードは切り替えられるようにピン接続できます。仕様では降圧時5A、昇圧時3Aの最大出力電流となっています。入出力間のアイソレーションはありません。サイズは小さく、25.2mm x 20.3mm角です。出力電圧はVRで可変(0.8Vから17V)できるようになっています。
ストロベリーリナックスの「LTC3119 可変型昇降圧DC-DCコンバーターモジュール(0.8V~17V)」
500円玉が重なるくらいの小ささ
これで最大5A取れるらしい
スペック的には一般の昇降圧コンバーターだが、MPPC機能を持っているのが特徴
背景はストロベリーリナックスのモジュール説明資料
このモジュールの用途ですが、12Vのバッテリ等を入力として、11V以下に低下するまで出力電圧13.8Vを維持する昇圧コンバーターとしての用途が考えられます。ただ残念なのは最大入力電圧が18Vなので、24Vバッテリが使えない点です。18Vというのはちょっと中途半端な感があります。
出力電圧も最大17Vと中途半端です。これも20V以上あれば、ノートPCなどの電源(19V)として使えるかも知れません。
あとは超小型という点でしょうか。何かに組み込むにはもってこいですが、発熱に関しては注意が必要なようです。ストロベリーリナックスの説明書によると4Wまでは放熱の必要なしとなっていますが、出力電圧13.8Vとして4Wというと、たったの0.3Aしか取れません。これ以上の電力を取り出したい場合、ストロベリーリナックスの説明によればヒートシンクと基板裏面の間に放熱シートを挟んで放熱するか、ファンで強制空冷せよと説明があります。プリントパターンの情報がないので定かではありませんが、おそらくチップ裏面のダイアタッチパッドをGND面とビアでつないで放熱の配慮はしてあるのでしょう。
今回は簡易なヒートシンク(厚手のアルミ板をL字に曲げただけのもの)をFETなどの絶縁に使うシートを挟んで熱を逃がすことにしました。せっかく基板が小さいですから、ヒートシンクも小さいものにして小型にしたいですね。
今回は、この「LTC3119 可変型昇降圧DC-DCコンバーターモジュール(0.8V~17V)」の性能を計測してみました。すべてPWMモードです。
試験項目は、
〇入力電圧0(14)から18V VS 出力電圧(設定 13.8V) 出力電流 0.2, 0.5, 0.8, 1.0, 1.5, 3.0, (4.0, 5.0A)
〇出力電流 0から3A(5A)までの出力電圧(設定 13.8V) 入力電圧6, 8, 10, 12, (14, 16, 18V)
〇出力電流 0から3A(5A)までの効率(出力電圧 13.8V) 入力電圧6, 8, 10, 12, (14, 16, 18V)
〇出力電流1A/入力電圧8V, 2A/10V, 3A/12V, 4A/14V, 5A/16V 連続使用の場合の発熱 出力電圧(設定 13.8V)
なお、LTC3119の特徴はなんといってもMPPCにあるので、太陽光パネルと組み合わせてバッテリの充電実験を別に行ってみたいと思っています。
モジュールを蛇の目基板に乗せ、入出力のコンデンサとターミナルを実装
ヒートシンクは簡易な厚手のアルミ板を使用の間に合わせ
モジュールの裏面と蛇の目基板の間に挟んだ
絶縁はパワーFET用の放熱を兼ねた絶縁シート(TO-3P用)を使用
〇入力電圧0(14)から18V VS 出力電圧(設定 13.8V) 出力電流 0.2, 0.5, 0.8, 1.0, 1.5, 3.0, (4.0, 5.0A)
入力電圧を0Vから18Vまで変化させて出力電圧の変化を見ます。このとき、出力にかける負荷は、0.2
A, 0.5A, 0.8A, 1.0A, 1.5A, 2.0A, 3.0A, 4.0A, 5.0Aを選びました。これらの場合の始動入力電圧と出力電圧は以下の通りです。ただし出力電圧の設定(無負荷時の電圧)は13.8Vです。
負荷電流 始動入力電圧 出力電圧
0.2A 2.6V 13.8V
0.5A 3.2V 13.8V
0.8A 4.2V 13.7V
1.0A 4.4V 13.7V
1.5A 5.5V 13.7V
2.0A 7.0V 13.6V
3.0A 10.0V 13.5V
4.0A (14.0V) 13.4V 3.0A超は降圧モードのみでるため14.0Vから始めた
5.0A (14.0V) 13.3V 3.0A超は降圧モードのみでるため14.0Vから始めた
以上のように負荷がかかっていると始動電圧が変わります。例えば2.0Aの負荷がかかている場合、入力電圧が7.0V以上ないと始動しません。出力電圧は、最大負荷5.0Aの時でも、13Vを下回ることはありませんでした。
〇出力電流 0から3A(5A)までの出力電圧(設定 13.8V) 入力電圧6, 8, 10, 12, (14, 16, 18V)
これは先の計測のパラメーターが逆の場合です。入力電圧を一定にしておき、出力電流(負荷)を変えてゆき、出力電圧の変化を見ます。
グラフから、出力電圧は無負荷の時の設定電圧13.8Vから、負荷をかけていくと5Aで13.3Vまで下がりますが、どの入力電圧でもほぼリニアに同じ傾斜で変化(降下)しています。
入力電圧Vinが6Vと低い場合、出力電流Ioutが2.0Aを超えたあたりから、入力電流Iinが低下し始め、その後出力電圧Voutも急激に下がり始めています。入力電圧6Vから出力電流2.0A以上流しながら出力電圧を13.8Vに昇圧するのは無理ということになります。
入力電圧8Vの場合は、出力電流3.0A流れた時点で入力電流が低下しています。こちらは出力電圧には影響なかったようです。入力電圧8Vから出力電流3.0A以上流しながら出力13.8Vに昇圧するのは無理ということになります。
入力電圧10V, 12Vでは、3.0A流しても問題ないようです。ただし、このモジュールは昇圧モードの場合最大3.0Aが仕様ですので、今回の計測では3.0A以上は流していません。
入力電圧14V以上になると降圧モードなので、仕様の5A流しても出力電圧はほぼ13V台を保っています。
〇出力電流 0から3A(5A)までの効率(出力電圧 13.8V) 入力電圧6, 8, 10, 12, (14, 16, 18V)
85%から90%くらいと読み取れます。
〇入力電圧12V/出力電流3A, 16V/5A 連続使用の場合の発熱 出力電圧(設定 13.8V)
上の実装写真にある簡易な放熱対策(厚手のアルミ板をL字に曲げ、モジュールの裏面に張り付けた)を行い連続運転で発熱を観察しました。温度計は理科実験に使うガラス棒温度計をシリコングリスでアルミ板に張り付けたものです。昭和方式です。正確ではありません。室温は24度です。
入力電圧12Vで出力電流3A 設定出力電圧13.8Vで連続運転した場合、56度に達し安定しました。これは昇圧モードです。これを12V小型ファンで強制空冷すると28度に下がりました。
次は降圧モードにするため入力電圧を16Vにして同様に運転すると、48度に達し安定しました。これは降圧モードです。これを12V小型ファンで強制空冷すると27度に下がりました。入力電流が下がる分少し発熱がおさまります。
次に、入力電圧16Vで出力電流5A 設定出力電圧13.8V、強制空冷で連続運転した場合、32度に達し安定しました。
以上LTC3119の性能評価をやってみました。さすがにリニアテクノロジ(アナログデバイセズ)ですね。性能のよいICを提供してくれます。これによって入力電圧範囲、出力電圧範囲が広く、超小型なのに5Aも引き出せるコンバーターが容易に実現するというのは素晴らしいの一言です。後日このLTC3119のMPPCモードで太陽光パネルによるバッテリの充電を試してみたいと思います。
(JF1VRR)