パワーアナライザによる計測 調光器
投稿日 2023/06/16
昔作って、いまだに実用のトライアック調光器
トライアック TMG40AA40 400V 40A使用
秋月電子のキットを作ったもの
プッシュボタンでON/OFFできるよう改造してある
今回はパワーアナライザで調光器(ディマー)を計測してみました。調光器といえば簡単な回路ですので、自作には最適。一台作っておいて損はないと、組み立てに励んだ方も多いのではないでしょうか。かなり前から秋月電子などでキットが販売されてますので、それを購入すれば部品集めの手間なく、製作に集中でき、完成したものは実用的という、願ってもないキットです。
調光器は白熱電球の明るさや半田ごての温度調節、扇風機の風力調整などに使われます。ビジネスホテルなどのルームライトの調光でもおなじみですね。小型のわりに大電力を調光できるので、いろいろな用途があります。
今回は大昔に秋月電子で購入した調光器キットを計測してみました。このキットは回路に使用しているトライアックにいくつかの遍歴があったようで、当局が所有するのはTMG40AA40という、400V 40Aのトラアックを使った回路になっています。現在、秋月電子の商品ページ見ると、同じと思われるキットにはBTA24-600CW(600V 25A)というトライアックが使われているようです。
トライアックとトリガーダイオードを使用した調光器の簡略回路
トライアックは、ゲート(G)にトリガパルスを入力することで、双方向の電流をON/OFFできる素子です。AC100Vの正弦波における特定の位相角でトライアックにトリガをかけることにより、そこから電圧がゼロクロスするまで導通し、電流を流し続けます。トリガは、コンデンサ(C)にチャージする時間を可変抵抗(VR) で加減してやり、そのチャージ時間が位相角となります。トライアックのゲート(G)につながれたトリガーダイオード(ダイアック)は所定の電圧になればON(導通)するダイオードで、コンデンサの電圧が所定の電圧になった時点でトライアックにトリガをかけます。トリガ電流でコンデンサーは放電するので、次の半サイクルで同じことが繰り返されます。この動作により、トライアックに流れる電流はトリガがかかった時点から0Vを通過するまで流れることになり、それが交流の上サイクルと下サイクルで繰り返されます。つまりAV100Vラインに流れる電流は上下対象ですが非常に歪んだ波形になり、高調波を多く含みます。
調光100% (223.6W)
99.85V 2.240A 223.6W PF 0.9963 49.99Hz
調光75% (167.7W)
100.41V 2.031A 167.7W PF 0.8223 49.97Hz
調光50% (112.6W)
101.61V 1.764A 112.6W PF 0.6284 50.01Hz
調光25% (56.0W)
102.10V 1.370A 56.0W PF 0.3979 49.95Hz
今回の計測は、60Wの白熱電球4個を負荷として、調光中のトリガの各位相角(トリガ位置)での電流波形の観測し、そのときの電圧、電流、電力、力率などの各値、高調波の含有率とグラフを得ました。トリガ位置は最大パワー(無調光)の100%、75%、50%、25%になるように調整しました。以下はその結果です。
調光率 100% 75% 50% 25%
交流電圧(Vrms) 99.85 100.41 101.55 102.10
交流電流(Arms) 2.240 2.031 1.764 1.370
有効電力(W) 223.6 167.7 112.6 56.0
皮相電力(VA) 224.4 203.9 179.1 140.7
無効電力(var) 0.0194 116.0 139.4 129.1
力率(PF) 0.9963 0.8223 0.6284 0.3979
電圧の周波数(Hz) 49.99 49.97 50.01 49.95
電流の第二高調波値と含有率 0.001(0.03%) 0.017(0.91%) 0.032(2.20%) 0.057(6.0%)
電流の第三高調波値と含有率 0.061(2,74%) 0.728(39.71%) 0.065(61.60% 0.744(78.27%)
電流の第四高調波値と含有率 0(0.02%) 0.018(1.0%) 0.032(2.26%) 0.055(5.76%)
電流の第五高調波値と含有率 0.097(4.32%) 0.290(15.85%) 0.343(24.43%) 0.447(47.04%)
調光率100%では有効電力が223.6Wなので、電球1個当たり56W程度となっています。電流は少し歪んでいるものの、力率は0.9963で約1と言えます。高調波もほとんど出ていません。調光率50%では、力率が0.6284と悪くなり、高調波も偶数次が多く出ています。調光器はモーターなどのリアクタンス負荷ではないので、電流が遅れているわけではありませんが、トリガタイミングまで遅らせることから、実質位相がずれたように見え、計算上無効電力が多くなります。電気代は有効電力に対して課金されるので、調光器で調光すれば電気代の節約にはなります。(高調波規制 JIS-C61000-3-2で白熱電球用調光器はクラスAに分類されています)
以上のようにトライアックを使用した調光器は回路が簡単で安上がりであり、手軽に大電力を制御できるということで家庭や商業施設で結構使われていると思われます。しかしトライアックによる調光は高調波を多く含んだ電流が流れるので、これが他の電気機器に悪影響を及ぼすことも考えられます。最も使われているであろう白熱電球の調光は、大きな電力を扱うわけではないので、問題にならないのかも知れませんが。
一方、照明では白熱電球に代わってLED電球が普及していますが、LED電球には今回のようなトライアック(位相制御による)調光器は使えません。LEDは直流で点灯するもので、LED電球やLED使用の照明器具には交流を直流に変換しており、電圧を可変できるようにして調光したり。点灯するLEDの数を変えたりして調光できるようにしています。
(JF1VRR)