9R-59D 通信型受信機の修理

50年ほど前に販売されていたトリオの往年の名機 9R-59Dがオークションに多く出品されています。当時アマチュア無線やBCL、SWLなどで使用していた9R-59D。長らくのしまい込んでいた名機を手放す方が多いようです。

9R-59Dは中波、短波帯の通信型受信機です。大まかなスペックは以下の通りです。

高周波増幅1段、中間周波増幅2段(メカフィル使用 455KHz)
Aバンド 550 ~ 1600KHz (いわゆるAMラジオ帯)
Bバンド 1.6 ~ 4.8MHz(3.5MHzのアマチュアバンドを含む)
Cバンド 4.8 ~ 14.5MHz(7MHz、14MHzのアマチュアバンドを含む)
Dバンド 10.5MHz ~ 30MHz(21MHzと28MHzのアマチュアバンドを含む)
使用真空管等
 6BA6 高周波増幅
 6BE6 混合
 6AQ8 1/2 局部発振(残りの1/2は未使用)
 6BA6 中間周波増幅
 6BA6 中間周波増幅
 1N60 検波(AM)
 6AQ8 1/2 BFO
 6BE6 プロダクト検波(SSB、CW)
 6AQ8 1/2 低周波増幅
 6AQ5 電力増幅
オプション
 VR150MT 局部発振、BFOのB電源安定化
 6AU6* 3.5MHzマーカー
AMモードはANL(ノイズリミッタ)が付いています
メイン・チューニングダイヤルとハムバンド用バンドスプレッドダイヤル、アンテナTRIM
BFOはLC発振でツマミでUSB/LSBを調整
*6BA6または6AU6 (入手した9R-59Dは6AU6を使用)

さて、このようなオークションに出品される昔の受信機は、ほとんどが「現状で」という取引になるかと思います。この「現状で」というのは、まともに動きませんと言う代わりに使われる言葉のようで、あまり正常動作は期待できません。今回入手した9R-59Dでは、前のオーナーはおそらく大きな真空管AMラジオとして使っていたようで、AバンドのAM放送(中波)しか受信できない状態でした。

入手した9R-59Dの状態をまとめると、
〇Aバンド(AM放送)のAMモードは受信できる。(AMラジオとしては使える)
〇シャシを立てたり横に戻したりするとプツリと無感になる。
〇B、C、Dバンド(短波)は著しく感度低下している。
〇SSB-CWモードはどのバンドもほぼ無感。受信可能になるときがあるが、翌朝無感になる。

往年の名機 TRIO 9R-59D 通信型受信機
ツマミは左より
BFO FREQUENCY
FUNCTION(OFF,AM,AM-ANL,SEND,SSB-CW)
メイン・ダイヤル、バンドスプレッド・ダイヤル
BAND SELECTION(A, B, C, Dバンド)
右端上から
RF GAIN(マーカーON/OFF)、AF GAIN、ANT TRIM

修理に入る前に、まず9R-59Dの回路構成ですが、いたって標準的な通信型受信機です。ちょっと辛口に言えば、当時のアマチュアのみなさん、この程度で我慢してね的な回路と機構です。高周波増幅一段、中間周波増幅二段、AMはダイオードによる包絡線検波、SSB-CWは6BE6使用のプロダクト検波。局部発振は三極管の独立回路。BFOも双三極管の三極部を使用した独立発振回路。低周波増幅一段、電力増幅という構成です。Sメーター回路や簡単なノイズリミッタ回路、オプションで定電圧放電管による局部発振とBFOのB電源(150V)の定電圧化。XTALによるマーカー回路(3.5MHzの高調波)があります。入手した9R-59Dはフルオプションでした。

9R-59Dの回路図
オプションの定電圧放電管とマーカーは描かれていない

プロダクト検波とBFOの回路はSSB-CWモードにした場合のみ生きるようになっています。中間周波増幅から1PF(C20)で6BE6のG1に入れ、BFOの出力を同球のG3に入れています。プロダクト検波はいわゆる周波数変換器で、中間周波数(455KHz)に変換された受信信号と、BFO(455KHz付近)とのビートをとって、音声周波数を抜き出します。感度を上げようと思って1PFを大きくしても、それは邪道で音を歪ませるだけです。一般的には受信信号に対してBFOは強力な信号が必要です。また、BFOのきれいな発振波形と安定度は重要で、受信音質と安定度にかかわります。もう少し高級な受信機のBFOは453.5KHzと456.5KHzのXTALを用いた水晶発振回路を採用していますが、9R-59DではLC発振器を採用し、発振周波数を小型バリコン(30PF)で数KHz微調できるようになっています。これは回路が簡単で安価と言え、9R-59Dのような廉価な受信機では、バンドスプレッド・ダイヤルに加えて、BFOの周波数を変えてSSBやCWの復調が楽にできるメリットもあります。XTALを採用したBFOの受信機では、より高度なダイヤルメカによりVFOの微調ができないと満足な操作性を実現できません。

TRIO 9R-59Dの内部上面

機構面は送信機のTX-88Dと同じサイズのやや大型のケースに収まっており、コイルパックが床下に陣取っているスペースにメイン・バリコンとバンド・スプレッドのバリコンが置かれています。それを取り囲むように右側から高周波増幅、周波数変換、局部発振回路がシャシに組まれており、右側の基板に二段の中間周波増幅が。写真の上の基板にAM検波、プロダクト検波、BFO、低周波増幅、電力増幅が組まれています。左端のブロック・コンデンサーの下はオプションの定電圧放電管とマーカーです。

シャシは鉄製ですが、大きな平たいシャシで、補強板等は入っていませんので、持ち上げるとしなり、周波数が動きます。カバーをして動かさずに使っている分には問題ありません。中間周波増幅から電力増幅まで基板化されていますが、これが結構くせ者です。キットの性格上、製作者が組みやすいようにとの配慮と思いますが、このようなスルーホールではない昔の基板は接触不良の多発地帯となります。ほとんどの場合半田不足やイモ半田です。真空管のソケットは基板用のもので、足がプリントパターンに半田付けされていますが、真空管の抜き差しで半田かパターンに亀裂が入り、接触不良を起こしがちです。基板実装は表面の部品が見えないので、メンテナンスもしにくいものです。高周波増幅と周波数変換回路はシャシに組まれていますが、コイルパックが迫っていて、せせこましい配線になっています。BFOは基板上に乗っており、個別シールドされていません。

では、いよいよ修理です。

〇シャシを立てたり横に戻したりするとプツリと無感になる。

シャシを立てたり寝かしたりするといずれかでプツリと無感になったりします。これは接触不良を疑いますが、高周波増幅、局部発振、周波数変換部は絡め配線されているのでまず問題ないと見て、疑わしいのは基板です。プツリと無感というのは、まったく音がしなくなるということです。前オーナーも悩まされたようで、基板の半田が何か所も盛りなおされています。

プツリと無音になるという現象ですので、まずはプレート、スクリーングリッドのB電圧の接続を見てみます。感電しないようにリード線を揺らしていくと簡単に見つかりました。US-5P(AF, POのB電源)リードの接触不良です。さっそく半田を盛りなおして完了です。現象は無くなりました。

基板は結構くせ者で、接触不良がよく起きます。スルーホールではないため、部品の足とパターンとの接触は半田の盛り方にかかっています。ほとんどの場合半田が不足しているかイモ半田です。リード線は手油などで浮いています。真空管のソケットピンは、真空管の抜き差しによって浮いたり、亀裂が入ります。

〇B、C、Dバンド(短波)は著しく感度低下している。

まずコイルパックの離調を疑います。ほとんどの場合前オーナーが適当にいじり倒しています。シグナル・ジェネレーターをつないで信号を入力してやるか、なるべく安定している放送を選んで、ダイヤルと周波数がだいたい合うように局部発振コイルを調整します。その後、アンテナ・コイルとRFコイルを調整して、じっくりと最大感度にもっていきます。最終的にはマニュアルを見て調整します。

9R-59Dの配線面
中央に4バンドのコイルパックが鎮座

今回はアマチュアバンドの7MHzで調整してみました。この9R-59DのCバンドはRFコイルが大きく離調していました。調整の結果聞こえるくらいにはなりましたが、まだ感度が足りません。Sメーターの振れも悪いので、試しに中間周波増幅の一段目の6BA6を交換してみました。結果、感度が十分に上がりました。

ほかのバンド(B、Dバンドはいくら調整しても感度が上がらずらちがあきません。とりあえず7MHzが調子よく受信できるので、後日分解修理して徹底的に調整するとして、先に進むことにしました。

〇SSB-CWモードはどのバンドもほぼ無感。受信可能になるときがあるが、翌朝無感になる。

この9R-59D固有の現象かも知れませんが、BFOが発振を停止する、もしくは激しく離調する現象があるようです。BFOが発振を停止したり455KHz付近から大きく変わるとSSB-CWモードでは無感となります。プロダクト検波は455KHzに変換された受信信号とBFOの455KHz付近の信号を混合してビートを発生させ、音声信号を取り出すわけですが、BFOの信号が停止していたり、大きく離調していると音声信号が取り出せず、無感(まったく音が出ない)となります。

この9R-59Dでは、BFOコイルのコアを回すと突然発振を始めて受信可能になったり、受信中に数秒かけて無感になっていく現象がありました。また、調子よく鳴っていても、翌朝電源を入れると全く無音となる現象がたびたび起きます。これらの現象はすべてSSB-CWモードでの話で、AMは正常です。

これらの現象はBFOの発振停止や離調ということは確実ですが、BFOの6AQ8とプロダクト検波の6BE6に印加されている電圧は正常範囲でした。こうなると疑うべきはBFOコイルが抱いている1000PF(1000K)のスチコンしかありません。BFOコイル内部のスチコンを外してLCRメーターで容量を測りました。結果、フラフラしており、800pFあたりから1024pFあたりまで動きます。(LCRメーターにつないだままにしておくと1024pF付近から徐々に容量が減っていく現象も見られました)、指で温めると1024pF辺りで落ち着きます。指で圧力を加えるとふらつきます。これは不良とみて、手持ちのスチコン1000pF(1000J)に交換。結果、BFOが発振しなくなる現象はおさまり、安定になりました。

なお、BFOが不安定または発信しなくなる現象は、上記のBFOコイルの1000pF不良のほかに、BFOコイルのコアがかなり下に抜けた状態で発振しているので、コアが不安定になっている場合や、AMモードのときにプロダクト検波の6BE6とBFOの6AQ8を停止する仕組みの影響が考えられます。前者はBFOコイルのコアが固定されるよう蝋などで処置したり、後者の場合はFUNCTIONのロータリースイッチの洗浄なども行っておくべきかもしれません。当局の場合は接点復活材(サンハヤトのRC-S201)を吹きかけておきました。

9R-59DのBFOコイル(アルミケースを外して撮影)
455KH付近で発振している
透明のプラスチックボビンに巻かれている(実に安ものくさい)
コンデンサはスチロールの1000K(1000pF)を抱いているがこれがくせ者
ボビンの内側にネジが切られているようにも見えるが、コアが下にかなり抜けかかった状態
コアが動かないよう処置したほうが良いかもしれない

それにしてもトリオさんにはこのような受信機の生命線であるBFOにはもう少しお金をかけて欲しかったと思います。見ての通りBFOのボビンはプラスチックですし、コアも安定する構造とは思えません。別シャシにしてシールドするようなこともなく、おまけのような構成です。プロダクト検波もあまり評判のよくない6BE6による検波です。全体的に安くすませたという感じは否めません。

最後にこの9R-59Dで受信しているところです。

今後

今回の修理は、接触不良、コイルパックの離調、BFOの発振停止などを修理し、とりあえず7MHzでは十分な感度で鳴るようになりました。7MHzバンド以外の感度不足という課題が残っていますが、これは一度バラしてオーバーホールしてから再度挑戦したいと思います。

(JF1VRR)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA