EF-850の動作確認と調整 FMフロントエンド

投稿日 2017/05/05

​EF-850は昭和30年代に販売されたナショナルのMW/SW, FM 3バンドラジオです。

先日から以下のようにEF-850の各部の動作状態を波形観測等で確認してきました。

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所有のEF-850はオークションで入手したものですが、前オーナーが劣化が疑われるコンデンサーや抵抗等の交換を行って、ある程度整備されていました。

このラジオをなるべく良好な状態にもっていくために、各部の点検をしています。今回はFMフロントエンドです。

3バンド・ラジオ ナショナル EF-850

以下のようにブロックを分けて進めています。

電源部 
低周波電力増幅部と低周波電圧増幅部
AM検波部
FM検波部 
中間周波増幅部
MW/SW周波数変換部
FMフロントエンド <- 今回
同調指示部

EF-850 3バンドラジオ回路図

FMフロントエンド

FMフロントエンドは、FM放送周波数(76MHzから90MHz)を中間周波(10.7MHz)に変換するための回路機構です。それには高周波増幅、局部発振、混合の各回路が含まれます。フロントエンドは、FMチューナなどでは、専用のシールドケースに封入されていますが、EF-850の場合はそのようにはなっておらず、簡易的なものです。(ここではFM用の高周波増幅、局部発振。混合の各回路部分をフロントエンドと称しています。)

回路は同調型の2連バリコンタイプです。高周波増幅のアンテナコイルは固定同調です。ほぼ中心の85MHzあたりに同調しているかと思われます。2連バリコンは高周波増幅の出力側の同調回路の同調周波数と、局部発振の周波数を選択しています。

EF-850のFMフロントエンド部

双三極管1本使用のオーソドックスな回路

高周波増幅と局部発振、混合を1本の複合管(17EW8の場合は双三極管)で済ませるローコスト回路で、AM-FMラジオに多く採用された回路のようです。

使用真空管は17EW8ですが、これはFMフロントエンドではおなじみの6AQ8のトランスレス版です。双三極の一方の三極部を高周波増幅に、もう一方を局部発振と混合に使っています。中央にシールド板があり接地されています。

この回路の高周波増幅はグリッド接地型ではないので、グリッド-プレート間の寄生容量でフィードバックが起こり発振しやすい回路です。そのため小容量(3.5pF)で中和しています。局部発振はハ―トレー回路で高周波増幅された信号を出力側の同調コイルのタップから取り出し、コイルの結合でビートを発生させ、10.7MHzを取り出しています。

FMフロントエンド部はシャシの端に組み込まれ、シールド板もあるが、

シールドケースで密封されたものではない。

入手したEF-850は、受信周波数範囲に問題はありませんが、感度が悪く実用的ではありません。室内に貼った簡易アンテナでも数極曲入感しますが、不安定で明瞭ではなく実用的ではありません。基本的には機能しているのですが、全体的に能力を発揮できていない感じです。このラジオの販売当時はまだFM局の数は多くなく、関東では東京に1局ですから、田舎では指向性アンテナを野外の高所に立てるなど、好条件にしないと、なかなか納得いく受信はできなかったと思われます。

17EW8は高周波用の双三極管ですが、ヒータがトランスレス用の17.5V 150mAですので、差し替え球がありません。オークションでも見かけますが、希少な部類です。6AQ8はオーディオ界でも人気の球ですから多く出回っているのですが。

ヒータ以外は互換球といわれる17EW8と6AQ8ですので、静特性を計測して比較してみました。いずれの球もかなり使用感のあるものですが、比較してみるとかなり違っていました。17EW8はカーブが横に寝て内部抵抗が高くなっているようで、幾分くたびれているようです。このような球で調整を試みても甲斐がないので、よいものを入手できるまでお預けです。

EF-850で使われている17EW8高周波用双三極管Unit1の実測Ep-Ip特性

EF-850で使われている17EW8高周波用双三極管Unit2の実測Ep-Ip特性

波形観測はまず局部発振にプローブをあててみます。受信しているとビートを起こすので、高周波増幅のB電源は切っておきます。バリコンを回して周波数変化を確認します。

FM局発発振波形(TP1) 76MHz辺りを受信中
約65.3MHz(76MHz - 10.7MHz)を発振している

FM局発発振波形(TP1) 90MHz辺りを受信中
約79.8MHz(90.5MHz - 10.7MHz)を発振している

1957年(昭和32年)12月にFM放送が始まって以来、真空管式のFMラジオがいろいろ登場したようです。EF-850もその一つでしょう。そのFMラジオの過渡期と言える時代に、FMフロントエンドにどのような回路を採用するかは、各技術者の考え方次第ですが、当時のFM放送局の数や放送電力など、受信可能範囲は都内など、かなり限定的で有ったに違いありません。少し地方や田舎に行くと、実用的であったかどうか心配になってきます。

PIONEER S-2000などのステレオ・コンポーネントに含まれる
AM-FMチューナ S63XのFMフロントエンド
グリッド接地固定同調型高周波増幅部をもつ
S63Xはステレオ・チューナアンプだが、ステレオと言っても
このようにフロントエンドはモノーラル時代と大差は無い

FM放送の周波数(VHF)ともなると、高周波一段はどうしても必要ですが、アンテナ入力が同調型か、非同調型か。同調型であれば固定同調かバリコンによる可変同調か。回路はグリッド接地型か、グリッド入力型かなど。いくつかの選択があります。

使用真空管は今回のトランスレスの場合は17EW8 双三極管が代表的ですが、6AQ8、12AT7、6U8などを使うケースもあったようです。6U8は、五極部を局発・混合に使います。

この頃FMラジオ自作のためのパーツやユニットがいくつか発売されています。ナショナルのFMフロントエンドAF-P1や、トリオのR10.7 レシオ検波トランス+IFTなど。

いずれにせよ、この後1963年12月にFM放送がステレオ化されるまでの6年間がEF-850のようなモノーラルFM付きAMラジオの全盛時代と言えるかと思います。

(JF1VRR)

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