TS-511XNの修理その3 受信音が途切れる
投稿日 201708/15
先日オークションで入手したTS-511XNの修理その3です。今回は受信音が途切れる現象です。(調べているうちにまったく受信音が出なくなりました。)
オークションで入手したTS-511XN(上)
調子よく受信していると思っていると、突然スピーカーの受信音が途切れます。まるでスケルチ・レベル(TS-511にはスケルチはありません)がギリギリになっていて、ときたまスケルチが効いて受信音が消えるのに似た現象です。ただ、途切れると言いましたが、
ときどき途切れる
受信音が出なくなると、そのまま戻らない。(電源を入れなおすと戻る)
現象が出ないときは、何時間も出ない
受信音がゆっくりフェードアウトする(徐々に消えてゆく)こともある
このような不可解な現象です。
ただ、何度か電源を切ったり入れたりしているうちに、まったく受信音が出なくなりました。現象が固定してしまいました。(そのほうが調べやすいですが)
まず見当ですが、
TS-511には、送信時ミュート回路があって、送信時にスピーカーから音が出ないようにAFアンプを殺しています。実際にはAFユニットに組み込まれている1石(2SC458)のプリアンプを殺しています。このミュート回路が何らかの原因で働くと、音が途切れる原因になりそうです。
また、ゆっくりフェードアウトすることもあるので、各分の電圧低下も考えられそうです。
そこでまず、各部の電圧の点検から始めます。
PS-511電源ユニットの回路図を見ると、数種類の電圧が作られています。
DC 400V(TS-511D/DN/Sの場合は900V)
DC 300V
DC 190V
DC 150V(安定化されている)
DC -C(約-80V)
AC 12.6V 2本
送信でのみ使われる電圧もありますが、まとめてチェックしておきます。チェックは各電圧がつながっているプローブを当てやすい端子で行います。計測は波形観測も兼ねてオシロスコープのメジャーメント機能を使いました。(実測値はすべてTS-511本体側で計測したもので、受信時です。)
DC 400V:
ファイナルのプレートの電圧です。送信時にのみ使われます。実測値 476V(受信時)
DC 300V:
ドライブ・ユニットのドライバーV1 12GN7AとV2 12BY7Aのプレートで使われる電圧です。これも送信時にのみ使われます。ドライブ・ユニットの端にある端子300で測ります。 実測値 308V
DC 190V:
ファイナルとドライブのスクリーン・グリッドの電圧です。これも送信時にのみ使われます。実測値 V
DC 150V:
IF基板の150端子です。T6の近くにあります。DC 150Vは±2V以内である必要があります。ずれている場合はPS-511電源ユニットのリアパネルにあるVR1 ADJで調整します。実測値 150V
DC -C:
ファイナルのコントロール・グリッドのバイアス電圧、AGC電圧、キャリア・ユニットの使わないクリスタルの停止、ドライブ・ユニットでのCWキーのキーインング回路で使われています。実測値 -87.6V
AC 12.6V:
これは照明用ランプ、ファイナルとIFユニット、ドライバー・ユニットの真空管のヒーターで使われています。照明用ランプの片側端子で計測します。実測値 12.5Vrms 50Hz
DC 16V:
AC 12.6Vを両波整流し平滑してDC 16Vくらいを作り、AFアンプ・ユニットやジェネレーター・ユニット、IFユニットのAGC回路で使っています。IFユニットに来ています。実測値 16.6V
DC 9V:
DC 16VからAVRユニットで安定化したDC 9Vを作り、キャリア・ユニット、マーカー・ユニット、コントロール・ユニットのIpメーターアンプ、VOXユニット、RIT回路の電源として使っています。AVRユニットのOUTです。この電圧は、様々な機能に影響を及ぼします。VFOはDC 150Vを9Vのツェナーダイオードで9Vを作って電源としていますが、RIT回路はAVRの出力を使っているので要注意です。実測値 IN 15.28V OUT 4.90V
この実測値を見るとAVRの出力が低下しているようです。(現象再現中の計測結果です)AVRユニットのVR1を回しても電圧が変化しません。各トランジスタのピンの参考電圧は、マニュアルのトランジスタ各部の電圧表に出ていますが、そもそも出力が正しく出ていないので、計測してもあてになりません。
一度電源を切り、再度入れて現象が出ていない(スピーカーから受信音が聞こえている)状態にして再度計測すると約8V出ていました。
各端子の配線色(参考)
IN: オレンジ/白
OUT: オレンジ/白
RT1: 灰/白
RT2: 青/白
RT3: 黄色/白
GND: 黒
AVRユニットは一般的なレギュレータですので、LM7809やLM317などのレギュレータICに置き換え、VR2とRT1端子、R10, R11とRT2およぼRT3端子を設ければよいわけですので以下のような回路で作れます。交換部品が無い場合はこれでよいかと思います。今回は、なるべくオリジナルを残すためにAVRユニットを修理することにしました。
AVRユニットはLM7809やLM317などで簡単に作ることができる
代替部品とくに2SA606が無い場合などには使える。
RIT用の端子RT1, RT2, RT3とVR2, 3.9K, 1KΩなども組み込む。
今回は不採用
AVRユニットの修理
配線をすべて切って、ユニットを本体から完全に外します。仮の電源(安定化電源)を用意してDC +16V位をIN端子につなぎ、出力(OUT端子)の電圧を確認しておきます。
まず最も重要なQ1 2SA606ですが、たまたま在庫があったので交換してみました。なぜQ1をまず疑うかというと、出力のショートなどで壊れる可能性が高いからですが、AVRユニットのシャーシへの取りつけ状態をよく見ると、OUT端子がシャーシに接近し0.5mmも間隔が開いていません。一見GNDとショートしているかと疑ったぐらいです。(これは取り付けのときは注意が必要です。) 何かの拍子にショートした可能性があるかもしれないからです。ただ、今回はQ1を交換すると出力電圧が、逆に2.2Vくらいに落ち込んでしまいました。
修理済みのAVRユニット
組み込む前にINにDC 16Vを加え、OUTの電圧を確認しておく
OUTの電圧はVR1で9Vに調整しておく
次はQ2, Q3, Q4の順番に新しいトランジスタと交換してみます。2SC372はとうに廃番で、残念ながら在庫も無いので、現在入手できるAF汎用トランジスター2SC1815で代用しました。
Q2を交換しても、現象変わらずでした。
交換した出力コン 100uF 16V、Q1 2SA606、Q2, Q3 2SC372
故障原因はQ3だった
次のQ3の交換で約9Vが回復しました。原因はQ2だったようです。VR1で9V丁度に調整しておきます。ついでに出力側のC1 100uF 16Vを念のため交換しておきます。全体をきれいにしてTS-511本体に戻しました。(Q4は交換せず) TS-511の配線はユニットの端子にラッピングで繋いでいますが、それはできないので半田付けで繋ぎました。(配線の色は前記しておきました。回路図の下です。ロットによって異なるかも知れませんが。)
敗戦を元通りにつないだら、再度OUT端子の電圧が9VになるようにVR1を調整します。その後、RIT OFF時(ゼロ点)のRIT電圧をVR2で調整します。
電源を入れて受信音をしばらくモニタします。瞬間的な途切れ、周波数の瞬間的なズレ(チャピり)等がないかを確認しました。OKのようです。
AVRユニットは冒頭にも書きましたが、各種発振回路の電源やRIT回路で使われるので、出力が変動すると周波数が動きます。また今回のようにある程度低下すると発振が停止して全く受信できなくなります。また瞬間的な変動では周波数のチャピり現象が出たりしますので、重要なユニットです。
なお、新しい半固定抵抗の手持ちがある場合は、VR1(500KB)、VR2(10KB)も交換しておいたほうがよさそうです。VR1はAVRユニットの出力電圧を設定する半固定抵抗です。VR2はRIT OFF時、または送信時のRIT電圧を設定する半固定抵抗です。
(JF1VRR)