ピコ6用プリミックスVFOを作る(その1)
投稿日 2021年01月10日
アマチュアにとってコイルやコンデンサを使用して特定周波数の同調回路を作ったり、フィルターを作ったり、ミキサーを作ったり、さらにはVFOなどを作ることは、アマチュア的好奇心を満足させるものです。つまり、アマチュアであれば周波数(信号)を自由に操作したいという欲求はとても大きいものです。と感じているのは私だけでしょうか。いわゆる周波数遊びです。hi
その欲求を満たすために一番よいのは受信機を一から作ることでしょう。当局も若い頃からいろいろ作ってきましたが、これから作るとなるとハードルが高い。そこで今回はプリミックスVFOを作って周波数遊びの好奇心を満足させることにしました。
プリミックスVFOとは、高い周波数の出力が必要な場合、安定して可変発振できる低い周波数と、安定しているXTAL発振をミックスして作るVFOのことです。PLL技術を使えば高く安定した周波数信号が作れるとはいえ、PLLはなかなかハードルが高いものです。そこでアマチュアとしてはプリミックスVFOで間に合わせることになります。ただし、2つの周波数をミックスするということは、それだけスプリアスの組み合わせが多いことに留意が必要です。
ベースにした回路はCQ出版「トロイダルコア活用百科」山村英穂著(旧版) P299の回路です。これは2ポールのバンドパス・フィルターの使用例として上げられたプリミックスVFOの回路です。5 - 6MHz(幅1MHz)のVFOと、45MHzのXTAL OSCをDBMでミックスし、2ポールバンドパス・フィルター(BPF)を通した後2段増幅して50 - 51MHzを得ています。今回作ったのはミズホ通信のピコ6用のVFOですので周波数構成を変えています。(実は以前作ったものの再現です。)
プリミックスVFOの回路例
VFOで5 - 5.1MHzをつくり、XTAL発振の45MHzとミックスして50 - 51MHzを得ている
さて、一世を風靡したミズホ通信のピコシリーズですが、どの周波数帯のピコでも送受信周波数は約50KHz可変のVXOが採用されています。
たとえば50MHz SSB/CWトランシーバのピコ6 (ぴころく)では、50.000MHzから50.500MHzまで計10個のXTAL(水晶振動子)が用意されており、そのうち50.200から50.250MHzまでのXTAL1個が標準装備されています。この他の周波数に出たい場合は、オプションの水晶振動子を購入しなければなりません。
私のピコ6は50.150 - 50.200MHzの水晶振動子を購入してXTAL Aとし、標準のXTALをXTAL Bとして切り替え、50.150MHzから50.250MHzまでに出られるようにしてあります。50.150から50.200まではCWが、50.200から50.250にはSSBが比較的多いようです。VXOによる同調はなかなか快適で、安定度も問題ありません。小型軽量のメリットを生かして野外で運用するにはもってこいです。
今回はこのようなピコ6に外付けのVFOを追加して50.000MHzから50.5000MHzまで連続で可変できるようにしようという試みです。このようにするメリットはあまり感じませんが、周波数遊びの好奇心を満たすにはちょうどよい課題です。
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ところでピコ6回路の周波数構成ですが、中間周波数が11.2735MHzですので、たとえば50.000MHzを受信する場合、38.7265MHzと差(50.000 - 11.2735 )を取らなければなりません。38.7265MHzをVXOで直接水晶発振させるのは難しいので、その3分の1。つまり38.7265 / 3 = 12.9088MHzで発振させて3逓倍しています。12MHz台の水晶振動子なら安定して発振してくれるVXOが作れますし、可変範囲が3倍効いてきます。外付けのVFOを作る場合、この38.7265MHzを作って、ミキサー(差分をとる回路)に注入してやればよいわけです。
ただし38.7265MHzは直接作りにくいというのは外付けVFOでも言えることですし、500KHzを安定して可変できるよう発振させるには10MHz以下がよいところです。LC回路で周波数安定度のよいVFOを作るのは昔から職人芸とされていますので、ここは市販のVFOで済ませることとし、ミズホ通信のVFO-5Dを使用することにしました。VFO-5Dは名前の通り5MHzのVFOで5.000MHzから5.5000MHzを出力できます。当時6000円くらいしましたが、今は製造終了し入手は難しいようです。
つぎに5MHzを38.7265MHzまで上げる必要があるわけですが、ここでプリミックスという技を使います。つまり 5.0000 + 33.7265MHz = 38.7265MHzとするわけです。ここでVFOが5.000MHzでXTAL発振が33.7265MHzとなりますが、33.7265MHzという半端なXTALは特注でもしない限り入手は困難です。このため入手しやすい周波数の33.000MHzとし、VFO側を5.7265MHzから6.2265MHzまで500KHz可変できるようにむりやり調整して使うことにします。
ただし、5.7265MHzジャストから発振する必要や、500KHzジャスト可変できるようにする必要は無く、その辺はラフに考えます。50MHzバンドの実情としてCW/SSBの一般的な交信では50.050MHzから50.300MHzくらいまでをカバーしていればよいし、かならずダイヤルの端が50.050MHzでなければならないという凝り固まった考え方もしません。したがって実際には最終的に50MHzのメーカー製受信機を測定器代わりにして聞きながら可変範囲が満足のいく範囲であればよしとします。このようなラフな考え方は自作のコツです。hi そこで、まずVFO-5Dが5.726MHzあたりまで発振周波数が上げられるかの確認が必要です。
下図がVFO-5Dの回路です。幸い発振部のコイルL2はコア式で調整可能になっています。ゼネラルカバレッジの受信機で5MHz台を受信しながら適当に周波数を上げていきます。
VFO-5Dの回路
話は変わって、前述のプリミックスVFOの回路をベースに作るわけですが、今回VFOの部分は自作せず、ミズホ通信のVFO-5Dを使いますので製作を大幅に省略できます。ただしVFO出力のLPFは入れてスプリアスを減らすようにします。XTAL OSCは33MHzに変更します。ミキサーのDBMも自作します。プリミックスVFOで大事なBPFは今回の周波数範囲をカバーするように定数を変更する必要があります。プリミックスVFOは様々なスプリアスが考えられます。百科に基づくと今回の場合は、以下のスプリアスが考えられます。
VFO出力 (f) 5MHz
VFO出力 (2f) 5 x 2 = 10MHz
XTAL OSC Lo - VFO出力 3f (Lo - 3f) 33 - 15 = 18MHz
XTAL OSC Lo - VFO出力 2f (Lo - 2f) 33 - 10 = 23MHz
XTAL OSC Lo - VFO出力 f (Lo - f) 33 - 5 = 28MHz
XTAL OSC Lo 33MHz
XTAL OSC Lo + VFO出力 2f (Lo - 2f) 33 + 10 = 43MHz
XTAL OSC Lo + VFO出力 3f(Lo + 3f) 33 + 15 = 48MHz
XTAL OSC 2Lo - VFO出力 3f (2Lo - 3f) 66 - 15 = 51MHz
XTAL OSC 2Lo - VFO出力 2f (2Lo - 2f) 66 - 10 = 56MHz
XTAL OSC 2Lo - VFO出力 f (2Lo - f) 66 - 5 = 61MHz
XTAL OSC 2Lo 66MHz
XTAL OSC 2Lo + VFO出力 f (2Lo + f) 66 + 5 = 71MHz
XTAL OSC 2Lo + VFO出力 2f (2Lo + 2f) 66 + 10 = 76MHz
XTAL OSC 2Lo + VFO出力 3f (2Lo + 3f) 66 + 15 = 81MHz
XTAL OSC 2Lo + VFO出力 4f (2Lo + 4f) 66 + 20 = 86MHz
出力のXTAL OSC Lo + VFO出力 (Lo + f) 38.7265MHzから39.2265MHzのみを通過させるBPF(通過帯域38MHzから40MHzくらい)で、その他のスプリアスを-40dB以下には減衰させたいところです。これは実験であらかじめ確かめておく必要があります。スプリアスを除去した後の広帯域アンプ2段はそのまま使うことにします。
次回以降では、
VFO(VFO-5D)の出力スプリアスを抑えるLPFの製作
33MHzのXTAL OSCの製作
DBMの製作
2ポールBPFの製作
広帯域アンプの製作
ケース加工と組み込み
全体性能の確認
ピコ6との接続と送受信の確認
と進めます。
(JF1VRR)