NJM2594 ダブルバランスドミキサーで実験
投稿日 2022年02月01日
NJM2594 ダブルバランスドミキサー
秋月電子で変換基板付きが200円
日本無線のNJM2594 ダブルバランスドミキサーは、外付け部品が少なく、無調整で使えるダブルバランスドミキサーです。無線機などの検波、変復調回路に使用されます。このようなダブルバランスドミキサーのICはこれまで数多く出回っていますが、NJM2594はキャリア抑圧特性も優れているとのことで、実験してその特性を調べてみることにしました。
ダブルバランスドミキサーとして思い浮かべるのはパッシブな部品で構成した、いわゆるDBMが上げられますが、市販で特性のよい物は高価ですし、自作も可能ですが、コアにコイルを巻くのが結構大変で特性の揃ったダイオードが必要、減衰を取り戻す回路も必要、よい特性のものを作るのが難しいなど、使いにくい面があるようです。
そこで今回のようなアクティブ素子であるICのダブルバランスドミキサーが便利で使いやすいので注目される訳です。いずれにしても、ダブルバランスドミキサーは、入力信号(Fs)とキャリア(Fc)の和または差をとる回路ですので、出力側にFs、Fc、その整数倍の成分などが出てきてもらっては困るわけです。つまり不要信号の抑圧特性が非常に大事です。
NJM2594の諸特性をまとめると、
電源電圧 標準 5V
消費電流 無信号時 11mA
変換利得 最小 -2dB 標準 0dB 最大+2dB
信号リーク*! 標準 -35dB 最大 -25dB
キャリアリーク*1 標準 -40dB 最大 -20dB
相互変調歪み*2 標準 -60dB
信号入力抵抗/容量 600Ω/3.8pF
キャリア入力抵抗/容量 1200Ω/2.2pF
出力抵抗/容量(OUTPUT1) 350Ω/2.6pF
温度 25℃ 電源電圧 5V
*1 : Fs=1.75MHz, 70mVrms(-10dBm) Fc=28.25MHz, 100mVrms(-7dBm) Fd=30MHz
*2 : Fs1=1.75MHz Fs2=2.00MHz -14.42dBmの時 29.75MHzのレベル
その他の計測条件は省略
ここで、NJM2594のデータシートからいくつかの特性グラフを抜粋してみます。
NJM2594 のデータシートから抜粋
これらの特性は、入力信号(Fs)、キャリア(Fc)、出力信号(Fc±Fs)が各周波数において、どのくらい出力(OUTPUT2)に現れるかを示しています。OUTPUT2にはFc±Fsしか現れてほしくないのですが、FsやFcも若干現れ(リーク)ます。それが入力信号漏れ、キャリア漏れといわれ、小さいほうが特性がよいわけです。
上左のグラフはFsを1.75MHz -10dBmに固定にしておき、Fcを1~1000MHzに可変(レベルは -7dBm に固定)した場合のOUTPUT2の出力レベルです。これを見ると50MHzあたりまでは、Fsの漏れは-35dBm。Fcの漏れは-40dBm程度で一定ですが、50MHzを超えたあたりから、漏れが増え始めます。Fc±Fsは、100MHzまでは0dBm一定ですが、100MHzを超える辺りから減り始めます。
上右のグラフはFcを28.25MHz -7dBmに固定しておき、Fsを1から1000MHz に可変(レベルは -10dBmに固定)した場合のOUTPUT2の出力レベルです。これを見るとFcの漏れは100MHzくらいまで-40dBm一定ですが、Fsの漏れが-30dBm以下に収まるのは50MHzくらいまでになっています。Fc±Fsは左のグラフと同様、100MHzくらいまで0dBm一定を保っています。
下のグラフは、Fsを1.75MHz -10dBmに固定しておき、Fcを1~1000MHzに可変しつつ、レベルを0dBm, -7dBm, -15dBmにそれぞれ変化させた場合の出力レベル(Fc±Fs)です。これによると、Fcが0dBmから-7dBmまでは、出力は100MHzくらいまで0dBmくらいを保ってますが、Fcが-15dBmになると出力は-5dBmに下がってしまいます。
NJM2594 のデータシートから抜粋
これらの特性は、Fs、またはFcの入力レベルの大きさ(-30dBmから+10dBmの範囲で)が、どのくらい出力(OUTPUT2)に現れるかを示しています。OUTPUT2にはFc±Fsしか現れてほしくないのですが、FsやFcも若干現れます。それが入力信号漏れ、キャリア漏れといわれ、小さいほうが特性がよいわけです。
上左のグラフはFcは28.25MHz -7dBmに固定しておき、Fsを1.75MHz固定にして、レベルを-30dBmから+10dBmに変化させた場合の出力レベルを示します。このとき、Fcの漏れはFsが0dBmまで-50dBm一定ですが、Fsの漏れは、-63dBmから-27dBmまでほぼリニアに変化しています。出力(Fc±Fs)もほぼFsのレベル変化に伴ってリニアに変化しています。Fc±Fsに0dBmくらい欲しければ、Fsも0dBmくいらいのレベルで注入する必要があります。
上右のグラフはFcを28.25MHz固定にし、レベルを-30dBmから+10dBmに変化させた場合です。Fsは1.75MHz -7dBm固定です。Fsの漏れはFcのレベルが弱いと多い傾向があり、Fcのレベルが-10dBmから+10dBmの範囲で、-40dBm以下に収まっています。Fcの漏れは、-10dBmから+10dBmの範囲は-50dBm。それよりレベルが低いと-70dBmまでリニアに下がっています。出力Fc±Fsは、Fcのレベルが-10dBm以上であれば、-8dBm辺りで一定になっています。
下のグラフはFcを28.25MHz -7dBm一定にしておき、Fsに近接した2つの信号Fs1 1.75MHzとFs2 2.00MHzを入力し、そのレベルを-20dBmから+10dBmに変化させた場合の相互変調歪みのグラフです。欲しい信号はFs1±Fcですが、Fs1の近傍にFs2 2.00MHzのような信号があると、相互に影響しあい、さまざまな合成信号が生まれます。そのうち一般的には2Fs1 - Fs2の3次相互変調歪み(IMD)が問題となります。今回では2 x 1.75 - 2 = 1.5MHzと28.25MHzの合成29.75MHzが現れます。このIMDの強さをdBmで現しています。
以上からNJM2594は、周波数100MHz程度まで。Fcのレベルは0dBmから+10dBmくらいの範囲。Fsは-10dBmから-5dBm辺りで使えばFc、Fsの漏れは-30dBm以下に収まり、変換利得はFs 0dBmに対し、出力0dBmですので、減衰しないという程度と考えたほういがよさそうです。
計測回路
NJM2594 のデータシートから抜粋
実際に信号を入力して計測してみる
NJM2594のデータシートでは、Fsに1.75MHz -10dBm。 Fcに28.25MHz -7dBmを使用していますが、当局の設備の都合でFsのレベルを約-7dBm(+3dBmを-10dBmのATTで減衰)にして行いました。実験回路はデーターシートに載っている回路(上記)、定数で、エミッタフォロア出力で実験します。
計測の様子
NJM2594を小さいフラット基板の上に空中配線
Fs 自作DDS VFO 1.75MHz -7dBm (+3dBmをATT 10dBmで-7dBmに減衰)
Fc HP8656B SSG 28.25MHz -7dBm
スペアナ TinySA スパン0.1MHzから50MHz
Fc±Fs -8.8dBm
Fcリーク -50.3dBm
Fsリーク -49.5dBm
電源5V
Fc 28.25MHz -7dBm, Fs 1.75MHz 約-7dBm スパン 0.1MHzから50MHz
Maker 1: 1.75MHz -49.5dBm Fsのリーク
Marker 2: 3.50MHz -47.5dBm 2Fsのリーク
Marker 3: 26.5MHz -8.8dBm Fc-Fs (Fs -7dBmから少し減衰)
Marker 4: 28.25MHz -50.3dBm Fcのリーク
Maker 5: 30.00MHz -8.8dBm Fc+Fs (Fs -7dBmから少し減衰)
Fc 28.25MHz -7dBm, Fs 1.75MHz 約-7dBm スパン 0.1MHzから200MHz
-40dBm以上のスプリアスは、
57MHz付近 -36.7ddBm
83.4と86.6MHz付近 -2.3dBm
つぎに、FcとFsのレベルによる影響ですが、まずFc(周波数は28.25MHz)のレベルを先の実験の-7dBmから0dBmと+3dBmに上げてみます。Fsは1.75MHz -7dBmです。
結果は、Fcのリークが少し多くなる程度で、他にはほとんど影響は出ませんでした。
Fc -7dBmのときのFcリーク -50.3dBm
Fc 0dBmのときのFcリーク -46.3dBm
Fc +3dBmのときのFcリーク -44.3dBm
Fcのレベルは-7dBmから+3dBmに高くなっても、Fcのリークが多少増えるだけで、ほとのど他に影響しないようです。
つぎにFsのレベルによる影響ですが、Fs(周波数は1.75MHz)のレベルは先の実験で約-7dBmにしていました。今回は0dBmと+3dBmに上げてみます。Fcは28.25MHz -7dBmです。
Fc 28.25MHz -7dBm, Fs 1.75MHz 約0dBm スパン 0.1MHzから50MHz
Fsのレベルを0dBmに上げた場合
Fc±Fsのレベルが上がる(約-2dBm)が
23.1MHz((Fc-Fs)-2Fs) -29dBmや33.6MHz((Fc+Fs)+2Fs) -28dBm他、全体的にスプリアス多い
Fc 28.25MHz -7dBm, Fs 1.75MHz 約+3dBm スパン 0.1MHzから50MHz
Fsのレベルを+3dBmに上げた場合
Fc±Fsのレベルが上がる(-1dBm)が
23.1MHz((Fc-Fs)-2Fs) -22dBmや33.6MHz((Fc+Fs)+2Fs) -20dBm他、全体的にスプリアス多い
以上の結果から、Fsのレベルは、-5dBm程度から-10dBm程度で使うのがよさそうです。
冒頭で書きましたが、DBMは無線機の周波数変換、検波などに使用されます。例えばFcとして7MHz台をDBMに注入し、ハムバンドの7MHzを高周波増幅してFsとしてDBMに注入すればダイレクトコンバージョン受信機になりますし、また、33MHzと5MHzをミックスして38MHz台のVFO(プリミックスVFO)を作り、ピコ6に注入すれば、VFO付きのピコ6に変身します。(ピコ6のIFは11.2735なので、50 - 11.2735 = 38.7265MHzのVFOを外付けすることになります。この場合入手しやすい33MHzのXTALと5.7265のVFOをプリミックスするとよいでしょう。)
(JF1VRR)