6BN6 ゲーテッドビーム管
投稿日 2016/10/31
6BN6ゲーテッドビーム管は、記号は五極管と同じですが、構造がまったく異なる特殊構造の球です。
用途は周波数変調波(FM波)の復調です。
GE製の6BN6 ゲーテッドビーム管
FM検波用の特殊構造管
7DFを採用しているのは6BN6のみ
ヒーターバリエーションは3BN6、4BN6、12BN6がある。
6KS6は同等管
Pin 1: Cathode
Pin 2: Glim (第一制御格子)
Pin 3: Heater
Pin 4: Heater
Pin 5: Gscr
Pin 6: Gquad(第二制御格子)
Pin 7: Plate(陽極)
FMの復調は周波数の変化を振幅の変化に変換することと言えます。その動作は通常、振幅制限器(リミッター)、検波器(ディスクリミネーター)、増幅器(アンプリファイヤー)の3つの回路で行われます。FM波の信号にとってAM要素、つまり振幅変化は意味が無く雑音ですので、これを取り除く必要があります。それがリミッターの役割です。検波器はフォスターシーレー検波のように検波トランスと二極管を組み合わせた回路が使われます。検波器には増幅能力は無いため通常は増幅器が必要です。増幅器は普通の電圧増幅器で、最終段の電力増幅器をドライブできるように増幅します。
6BN6 ゲーテッドビーム管
左端が陰極を含む集束電極ユニット
中央が第一制御格子、しゃへい格子を含む加速電極ユニット
右端が第二制御格子と陽極を含むしゃへい電極ユニット
このFM復調回路は各段で真空管を使うとすると3本必要となり、コストアップが悩みの種です。そこで検波器を多少リミッティング効果のあるレシオ検波にしてみたり、双二極・三極複合管(6BN8)を使って球の数を減らす努力が行われました。
6BN6は1949年に発表された真空管の中では後発の球で、FM検波用として登場しました。この球を使うとリミッティング。検波、増幅が1本で行える優れモノです。しかもレシオ検波で使われるような特殊な検波トランスも不要です。
コロナ社 標準電気工学講座11「電子管工学」より
6BN6ゲーテッドビーム管は一方の端にヒーター&カソード(陰極)があり、集束電極や加速電極によって薄い板状のビーム電子流が形成され、もう一方の端にあるプレート(陽極)に達します。その途中、カソード寄りに第一制御格子があり、これにかかる電圧が0V付近を中心に、わずかな正電位で電子流が全通過となり、それ以上プレート電流は増えません。これは一般的な三極管や五極管とは違い、電子流が第一制御格子に到達するまでにかなり加速されているためと考えられます。この動作は第一制御格子に加わった信号の振幅が一定以上になると、プレート電流が飽和するという振幅制限機能と言え、一定振幅の開閉信号(ON/OFF)を得る仕組みとも言えます。第一制御格子をリミッター・グリッド(Glim)とも言い、一種のゲートを形成します。
コロナ社 標準電気工学講座11「電子管工学」より
一方、プレート寄りに設けられた第二制御格子は、クォドラチュア・グリッド(Gquad)とも言われ、外部に中心周波数に同調したクォドラチュア同調回路をつなぎます。このクォドラチュア同調回路に発生する電圧はもとの信号よりも90度位相がずれるため、第一制御グリッドのゲートよりも開閉が遅れます。この第二制御格子が第二のゲートとなり、プレート電流は第一のゲートと第二のゲートが開いている区間だけ流れます。この動作は通過する信号の周波数によって開閉時間が異なる開閉回路と言え、プレートには信号周波数によってパルス幅の異なるON/OFF電流が流れることになります。これはすなわちパルス幅変調(PWM)信号と同じですから、フィルターを通せば容易に振幅変化の信号が取り出せます。
中心周波数foからのズレに伴ってプレート電流の幅が変化する
GE 6BN6データシートより
今回は6BN6のデータシートにも掲載されている以下の静特性を計測してみました。静特性なので実際の検波動作は見られませんが、二つのゲートがどのような電圧で開閉するかがわかります。
下図は実際に6BN6が使われている白黒テレビの回路です。前段の6AU6でIF増幅し、6BN6で振幅制限、検波を行い、電力増幅の6BK5(右に切れている)をドライブしています。
6BN6が使われた実際の回路例
白黒テレビ ビクター21T-465
ラジオ技術全書「テレビ受像機の基礎」より
計測は、
第一制御格子電圧 対 陽極電流特性
パラメータは第二制御格子電圧 。しゃへい格子電圧一定
第二制御格子電圧 対 陽極電流特性
パラメータは第一制御格子電圧。しゃへい格子電圧一定
の二つを行いました。6BN6のデータシートに載っているグラフと類似しています。
VGquad: 第二制御格子電圧
VGlim: 第一制御格子電圧
Ip: 陽極電流
Ep:陽極電圧
Eacc: しゃへい格子電圧
第一制御格子電圧 対 陽極電流特性
第二制御格子電圧(VGquad)をパラメータとし、
VGlim(第一制御格子電圧)-6Vから+20Vまでの陽極電流(Ip)の変化を見る。
第二制御格子電圧 対 陽極電流特性
第一制御格子電圧(VGlim)をパラメータとし、
VGquad(第二制御格子電圧)-6Vから+20Vまでの陽極電流(Ip)の変化を見る。
上のグラフより、第一制御格子電圧、第二制御格子電圧ともに+3V近辺で陽極電流が飽和しているのがわかります。
関連記事:FM検波に使われた真空管
6BN6 GE No.326
(JF1VRR)