ラジオ技術 1965年5月号

投稿日 2017/05/06

​今回はラジオ技術の1965年(昭和40年)の5月号を取り上げてみました。

ラジオ技術 1965年5月号
サブタイトルが「FMマルチ誌上短期大学」「FM MPXセットの製作」となっている

サブタイトル 「FMマルチ誌上短期大学」「FM MPXセットの製作」
目次
--- 特集 ---
FM-MPXセットの設計と製作
  FM-MPX信号のすべてをコンセツに解明する! FMステレオ1週間短期大学
  パックとキットを使ったFM-MPXチューナの製作
  トランジスタで作るMPXアダプタ
  日幸FAM-12全TR化FM-MPX/AMチューナ
  スターMU-34によるFMステレオ・アダプタの製作
  MPXアダプタの接続法と上手な使い方
  FMステレオ放送、最高の録音と再生の条件
--- 特別付録 市販FM-MPXアダプタ16種の回路規格集 ---
  ナショナルEUL-MXU1
  スターMX-4コイル・キット
  スターMX-3コイル・キット
  スターMU-88
  東芝FMA-20
  パイオニアMXA-3
  山水MP-2
  トリオAD-5
  日本コロンビアFX-300
  日立MA-20
  日本コロンビアFX-1
  三菱FR-64
  三洋FMT-5
  日本ビクターMPX-102
  ゼネラルMPX-1000
  日立MA-30
--- '65年ラ技Hi-Fi座談会-- 
  ハイファイを損なうものは何か? オーディオ界の迷信をキル(4)
高利得高S/Nステレオ・プリアンプの設計~製作
マランツ#7のSN比に挑戦する!
fo170c/s中音ホーンの作り方(2)
新観点から "Hi-Fi再生はテレコかディスクか"
--- グラビア・ページ ---
QUAD TR MPX アダプタ
QUAD FMチューナ拝見
アンペックス・テープ・プリンタ
自動応答気象計
--- エレクトロニクス・セッション ---
PCMとは何か? [第3回/PCM符号の伝送]
同期講座2 同期整流のはなし
ジェット機のエレクトロニクス[17]
シンクロスコープは自作できるか? [完]
エレクトロニクス用語辞典
パーツシリーズ TR用放熱器の話[2]
新しい真空管新しいトランジスタ
オーディオ用トランジスタ講座:3 ドライバ段の設計と小電力TRの選び方
--- テレビ ---
受像機の見方と考え方 映像を出すための回路[14]
--- HAMとSWL ---
ハムとSWLのための受信機設計講座[4]
SSB製作講座 平衡変調器の製作[3]

ラジオ技術 1965年5月号 折込付録の一部

エレクトロニクス業界でのこのころの話題は何と言っても1963年12月に始まったFMのステレオ実験放送の開始です。1965年頃はFM放送局も増えてきて、ステレオで放送される時間もかなり増えていたようです。

このため本号においては、サブタイトルが「FMマルチ誌上短期大学」「FM MPXセットの製作」となっており、このころ盛んにこれまでのモノーラルFMラジオにステレオ・アダプタを追加して、FMステレオ放送を聞いてみようという試みがなされていたことが伺えます。

MPXとはマルチプレクサのことで、FMステレオ放送が採用しているパイロットトーン方式のコンポジット信号(合成波)から左と右の音声帯域信号を分離する装置のことです。

このパイロットトーン方式のコンポジット信号は従来のモノーラルラジオでもそのまま聞けるようになっていますが、FM検波回路の出力(ディエンファシスの前)を取り出し、外付けのMPXに入力して分離操作をおこなうことにより、簡単にステレオ放送が楽しめるというものです。

MPXアダプタの回路は真空管で概ね2または3球程度の回路ですが、19KHzのパイロット信号の増幅や、その2逓倍の38KHz。また、38KHzを中心とした副信号の分離、67KHzを中心としたSCA帯域の除去などを含んでおり、そのフィルター回路に使用するインダクタンスの大きいコイルなどは自作が困難なため、スター社などではコイルキット MX-3(スイッチング方式用)、MX-4(マトリックス方式用)、MU-88(スイッチング方式用)ユニットなどを販売しています。製作記事はこれらコイル・キットやユニットを使用したものが多いようです。勿論、各メーカーからもアダプタの完成品が各種販売されています。折込の特別付録 市販FM-MPXアダプタ16種の回路規格集は貴重と言えます。

スターのMU-88 7360を使用したスイッチング方式のMPX回路例
ラジオ技術 1965年5月号 折込付録より

さて、FMステレオ放送の原理は、ステレオ・コンポジット信号がベースになっており、その理解が必要です。放送局から左と右の音声周波信号がどのような形で放送周波数に変調されているかということです。受信機側ではそのコンポジット信号から左と右の信号を分離しなければなりません。

ラジオ技術 1965年5月号より
特集のFMステレオ1週間短期大学

本号ではFMステレオ放送の原理について丁寧に、コンポジット信号の観測波形を交えながら解説しています。FMステレオ1週間短期大学と題して、

月曜日:FMステレオの特徴と送信機構成
火曜日:信号波形と左右信号の判別
水曜日:アダプタの種類と回路
木曜日:エンベロープ検波回路
金曜日:スイッチング検波回路
土曜日:ステレオ信号の検波原理

の構成でコンポジット信号とFMステレオ信号復調原理の解説が行われています。

ラジオ技術 1965年5月号より
特集のFMステレオ1週間短期大学
豊富な観測波形で丁寧な解説がされている

MPXアダプタの製作記事は真空管式、トランジスタ式含め4件掲載されています。写真はそのうちのひとつで、スターのFMマルチユニット MU-34を使用した例。ユニットをそのまま使い、単に電源を加えただけのものです。

ラジオ技術 1965年5月号より
FMステレオ・アダプタ製作記事
スターのMU-34FMマルチユニットをそのまま使用した例

MU-34はちょうどラジオ技術 1965年5月号に新発売の広告が載っています。それによると、

株式会社スター FMマルチユニット MU-34
定価 2,650円
チャネル・セパレーション 30dB< (1Kc1V入力時)
歪率 2%> (1Kc1V入力時)
周波数特性 50 - 15,000c/s±1dB
利得 1:1
動作入力レベル 0.3 - 2V
ディエンファシス特性 50uS
使用真空管 6EA8 1球
使用ダイオード 1N34A(1N60S) 4石
所要電源 B+160V 約10mA ヒータ 6.3V 0.45A
消費電力 約3W
寸法 61 x 125 x 80mm
重量 約180g

1965年ごろはまだFMステレオ放送の過渡期。これまでのモノーラルFMラジオにMPXアダプタを付けてステレオ放送を楽しもうという時代です。このあと、時代はFMチューナ時代へと移って行きます。オーディオ界にFMチューナが登場し、FMステレオ放送で臨場感のあるハイファイな音楽が楽しめるようになります。各メーカからは多くのFMステレオ・チューナが発表されてきます。勿論どんどんトランジスタ化が図られ、性能が向上してきます。

ただ、復調方式は一部パルスカウント方式なども登場しますが、原理的にはMPXで採用されたマトリックス方式やスイッチング方式が採用され続け、ほぼ完成された技術として長く親しまれます。TRIOのKTシリーズに見られるように、高周波増幅のFET化、多段同調回路、中間周波増幅のIC化やセラミック・フィルタ、メカニカル・フィルタの採用などさまざまな改良が行われていきます。

(JF1VRR)

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