パワートランジスタのVg - Id 特性を計測してみる
投稿日 2025年09月11日

Vg - Id (Vb - Ic)特性を計測したパワー・トランジスタ
パワートランジスタ、いわゆるパワーMOSFETやIGBTはON/OFFを繰り返す大電力スイッチング用がほとんどです。ONの状態は飽和領域、つまり完全にONの状態で使われます。これはスイッチと同じで、動作モードはOFFかONのどちらかです。一般のスイッチと違うのは大電力を高速にスイッチングできる点です。ON時の抵抗値は数mΩから数百mΩ程度です。
そのような使われ方をするパワーMOSFETやIGBTですが、ドレイン - ソース間(IGBTの場合はコレクタ - エミッタ間)が完全にONになる前のゲート電圧を操れば、アナログ領域(一般的な表現ではありません)で使うことができます。ただしスイッチング用に設計されているパワーMOSFETやIGBTをアナログ領域で使うのですから、完全にONになる前の狭い領域を使うことになります。
ということで、アナログ領域で使うには微妙なゲート電圧(Vg)を扱うことになります。ただしこのVgはデバイスによってまちまちで、かなり幅があります。一般的にVgは低いほうが扱いやすいと言えます。5Vまでに収まっていればロジック回路の電源を利用することで間に合うでしょう。高速にスイッチングするならば、ゲート容量などの影響で強力なドライブ回路が必要です。そのためのドライブICも多数あります。しかし、今回はスイッチングするわけではなく、単にVgとドレイン電流(Id)の静的な特性を計測するだけですので、その辺りは関係ありません。
今回Vg - Id特性(またはVb - Ic特性)を計測したパワートランジスタを以下に示します。
P.MOSFET 2SK3628 Panasonic Nch Vdss 230V Id 20A Rds 65mΩ Vg 1.7 - 3.7V
P.MOSFET 2SK2372 NEC N,ch Vdss 500V Id 25A Rds 220mΩ Vg 2.5 - 3.5V
P.MOSFET P75N75 PANJIT Nch Vdss 75V Id 75A Rds 81mΩ Vg 1 - 3V
IGBT ATP30GT60BROG ATP Nch Vdss 600V Id 64A
IGBT GT30J341 TOSHIBA Nch Vce 600V Ic 59A Vg 3.5 - 6.5V
P.MOSFET IRFP260MPBF IOR Nch Vdss 200V Id 50A Rds 40mΩ Vg 2 - 4V
Bipola P.TR 2SC4513 NEC 規格、使途不明
Bipola P.TR 2SC5200 TOSHIBA Vceo 230V Ic 15A Vbe 1.0V(Ic 7A)
Bipola P.TR 2SA1943 TOSHIBA Vceo -230V Ic -15A Vbe -1.0V(Ic -7A)
ゲート電圧Vg(またはベース電圧Vb)はファンクション・ジェネレーター(FG)を直流モードにして与えます。0.1V(100mA)ステップで可変できるFGです。パワーMOSFETやIGBTのゲート電圧Vgは概ね1Vから7Vの範囲です。バイポーラ・トランジスタのベース電圧(Vb)は0.5Vから0.7Vくらいです。いずれもソース、またはエミッタが基準です。ドレイン - ソース間は直接10Vの電源をCCモードにしてつなぎます。上記のパワー・トランジスタについて、Vg - Id特性を計測してみました。

パワーMOSFET、IGBTのVg - Id特性
品種によってかなり違いがある
データシートのVgの表記にもかなり幅があり、その範囲に入っていればよしとする
5Vまでに入っていれば使いやすいのではないかと思う
データシートのVgの表記は、ドレインの印加電圧と、Id値の条件が併記されていますが、Idが1mAのとき。つまりIdが流れ始める時点をVgとしているものが多いようです。そもそも、たとえば1Vから3Vというように幅が大きいのでその範囲に入っていればよしとします。スイッチングでは完全にONするためのVgが5Vまでに入っていれば使いやすいのではないかと思いますが、上記のIGBT 30J341は7Vを越えています。

バイポーラ・パワー・トランジスタのVb - Ic特性
2SC5200と2SA1943はコンプリメンタリ
バイポーラ・トランジスタはどれでも概ね0.5Vから0.6VあたりがIcの流れ始めるVbとなります。上記の2SC5200と2SA1943はコンプリメンタリですが、まったく同じ(正負対称)というわけにはいきません。ここでの計測は2SC5200に対して2SA1943は電源の極性を逆にして計測しています。2SC4513はどういうわけか'91のトランジスタ規格表を見ても欠落しており、ネットにも情報がありません。当局の2SC4513は何かから外したものと思われます。正体不明、用途不明のトランジスタです。
上記のように特性は品種によってかなり違いがあるが、では、同じ品種での個体差はどのくらいあるのでしょうか。データシートに記載されているVgは幅があるので、その範囲であることは間違いないと思われるが、どのあたりが最頻なのかは多数の個体を計測して度数分布をとらないとわかりません。そこで今回は多数の在庫がある2SK3628を10個計測してみました。2SK3628は最近まで秋月で1個140円で売られていた最安のパワーMOSFETです。リードは短くフォーミングされています。

パワーMOSFET 2SK3628 Panasonic Nch Vdss 230V Id 20A Rds 65mΩ Vg 1.7 - 3.7V
10個のVg - Id特性個体差

パワーMOSFET 2SK3628 Panasonic Nch Vdss 230V Id 20A Rds 65mΩ Vg 1.7 - 3.7V
10個のVg - Id特性個体差
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2SK3628-7のみVgが深い(Vgに鈍感の)ようですが、一応規格内です。2SK3628-10は除外して、Vgの平均は2.86Vあたりにありそうです。いずれも3.5Vを超えたあたりから飽和領域に達するのでまぁまぁ使いやすそうなパワーMOSFETです。
(JF1VRR)