130W 疑似正弦波DC-ACインバーター
投稿日 2025年10月01日
もう30年以上も前でしょうか。ホームセンターで購入したDC-ACインバーター。その頃は子供もまだ小さく、車でオートキャンプ場に遊びに行ったりしていましたが、その際、行きかえりの車の中でビデオを見たりするために購入したものです。
その頃はまだ純正弦波出力のDC-ACインバーターはかなり高価で、なかなか手が出なかったように思いますが、このインバーターのように疑似正弦波(修正正弦波)出力であっってもAC 100Vが使え、価格も手ごろとあって、ずいぶんもてはやされていたように思います。小型で手ごろなものがたくさん販売されていました。今回のインバーターはDC12V入力 AC 100Vrms(50/60Hz)疑似正弦波出力 130Wインバーター DAT130です。

疑似正弦波出力のDC-ACインバータ セルスター DAT130
入力 DC 12V シガレット・プラグ
出力 100Vrms(疑似正弦波) 50/60Hz 130W ACコンセント 2個
残念ながら回路図は無く、筐体は特殊なネジで密封されているので内部を見ることはできません。このような小型のインバーターがどのような回路を採用しているのか興味のあるところです。しかし想像するしかありません。
12Vのような低圧のDC(直流)からAC(交流)100Vを作るには、まず考えられるのはチョッパー回路でDCを交流にして、トランスで昇圧する方法です。チョッパー回路はパワーMOSFET等でブリッジを構成し、スイッチング周波数は簡単なゲートを使った発振回路で50/60Hzを作ります。そのチョッパー回路で生成した矩形波の交流電圧をトランスで昇圧します。トランスで12Vの交流を100Vの交流に昇圧します。疑似正弦波ではON区間の両側に0V区間を設けます。このときのAC 100Vは実効値となるよう昇圧します。トランスは一次側と二次側の電圧比が大きいと一次側に大電流が流れます。二次側100Vで130W取ろうとすれば、一次側12Vは単純計算で約10A流れます。これではトランスが大型になるので、DC 12VをDC-DCコンバーターであらかじめ24Vなどに昇圧して24V - 100Vのトランスを使えば、電流は約5Aで済みます。それでも大きいトランスが必要で、小型の筐体には収まりません。他には、DC12Vを昇圧DC-DCコンバーターでDC 100Vに昇圧し、それをチョッパー回路で交流に変換する方法で、この方法ではトランスを使わないので小型化が可能です。このインバーターはどんな方法を採用しているのでしょうか。なお、いずれの場合もチョッパー回路をPWM制御すれば正弦波出力にできるのですが、その辺りは製造コストと用途範囲の妥協との兼ね合いで製品化されてるのでしょう。
負荷をつないで波形観測
このインバーターは矩形波出力なのでつなぐ電気機器によっては動かないものがあるようです。扇風機のように動いてもモーターが少しうなる場合があります。今回は入力のDC 12Vに電流容量に十分余裕のある直流電源を使用し、出力負荷には無負荷、ラジカセ、90Wの半田ごて、扇風機、220Ωセメント抵抗、白熱電球 60W x 2、10W無線機用安定化電源(13.8V)を使用しました。これらの負荷で入力電流、出力電圧波形、出力電流波形を計測してみました。周波数は60Hzにしました。
無負荷

まず無負荷の場合です。このように疑似正弦波です。この場合ON期間が4.8msで、0V区間が両側に3.4msあります。あくまでもオシロの表示ですが、上のように波高140Vくらいで、実効値が105Vとなりました。周期は約16.4msで周波数は約60Hzです。無負荷での入力電流は0.34Aでした。無負荷時の消費電力は約4Wです。
軽負荷のラジカセ

次に軽負荷のラジカセですが、上のように波高132Vくらいで、実効値が105Vとなりました。ON期間は約5.3mSとなり無負荷よりすこし広がりました。入力電流は0.48Aでした。負荷が加わると実効値を維持するために少しON期間が広がるようです。ラジオの受信音にノイズがまざるようなことはありませんでした。
90Wの半田ごて

次に90Wの半田ごての場合ですが、上のように波高130Vくらいで、実効値が104.5Vとなりました。ON期間は約5.6mSとさらに広がりました。入力電流は2.36Aでした。負荷が大きくなるとON期間がさらに広がり、やや右下がりになっています。
扇風機(強風)

次に扇風機(強風)の場合ですが、上のように波高126Vくらいで、実効値が104.7Vとなりました。ON期間は約6.0mSとさらに広がりました。入力電流は4.65Aでした。負荷が大きくなるとON期間がさらに広がり、右下がりになっています。小さい音ですが、”ビー”とモーターがうなる場合があります。
220Ωのセメント抵抗

次に220Ωのセメント抵抗の場合ですが、上のように波高126Vくらいで、実効値が104.7Vとなりました。ON期間は約6.0mSとなりました。入力電流は5.15Aでした。負荷が大きくなるとON期間がさらに広がり、右下がりになっています。これは扇風機とほぼ同じです。
白熱電球 60W x 2


白熱電球 60W 2個 120Wの場合は、実効値が106.6Vとなりました。ON期間は約7.4mSとなりました。入力電流は12.2Aでした。ここまで流すと入力側のリード線が暖かくなります。このインバーターの最大電力に近い状態です。右はCTで観測した電流波形です。
以上のようにこのインバーターは負荷によってON時間を調整し、出力電圧が100Vrmsになるように追従します。
安定化電源 13.8V Iout 1A、2A、3A



10Wクラスのトランシーバーで使う小型の安定化電源に電子負荷で1A、2A、3Aを流し、電流波形を観測しました。入力電流は1Aの場合3.21A、2Aでは5.23A、3Aでは7.23Aとなりました。10Wのトランシーバーで送信時2A流れるとし、送受信割合が5:5とすれば、標準バッテリ40B19 (5時間率容量28Ah)あたりで、フル充電で10時間くらい使えることになります。停電などのときに活躍しそうです。
小型なので車内でも使え、家では太陽電池で充電したバッテリからAC100Vを作るような場合に活躍するDC-ACインバーターです。出力は疑似正弦波ですが、つなぐ電気機器を注意すれば便利に使えるお役立ちグッズです。
(JF1VRR)