妙義山印象
妙義山
山で出会う光景は様々だが、それはへたな絵を描いているとき、筆洗いの水の表面にたまたま現れた絶妙な渦のグラデーションというか。二度と見ることはできないかもしれない大気の魔法。清閑な空気のよどみの中に、ポタっと一滴の青インクが滴った、その次の瞬間をとどめたような光景。
群馬県高崎市の古びた温泉「霧積温泉」の奥にある鼻曲山からの妙義山。
妙義山の標高は1000m強とさほど高くはなく、しかもその後ろの軽井沢の台地も1000mを超えているため、関東平野から見れば壁の前にある屏風のようなもので、色の濃淡の中に混ざってしまってなかなか同定できない。山と山の距離が適度にあって初めて、大気の魔法が効果する。妙義山と軽井沢の距離ではそれが出ない。浅間山の手前下になにやらギザギザのややっこしい山体があるかなという感じである。
妙義山は実は二重の岩稜で、南東側を表妙義。西北側を裏妙義という。いずれも奇怪急峻な岩稜で、人を寄せ付けないが、紅葉の時季になると、怖い物の中の美を見ようと人々が集まる。
写真は絶妙な濃淡の中に、二重の妙義山。その向こうに西上州の山々、更に遠くに御荷鉾山や赤久縄山などが見えている。
(雅熊)