爆撃機墜落の慰霊碑
投稿日 2016年07月31日
南アルプスの赤石岳近くに、戦中墜落した爆撃機の慰霊碑がある。
先日、赤石岳から悪沢岳(東岳)への縦走を行ったが、赤石岳手前で思いがけずその慰霊碑に遭遇した。
慰霊碑のある場所は、赤石小屋の上にある富士見平で、赤石岳の絶好の展望台でもある。
富士見平の慰霊碑と赤石岳(左)と小赤石岳(右)
登山道は手前の尾根途中から左右あるカール状地形の右側カールを登り、
小尾根に乗って、中央の小ピークに至る
出発するパーティー
2016年7月28日撮影
今から35年ほども前、若かった私は南アルプスを縦走したことがある。そのルートを下調べするなかで、何かの文献や地図で爆撃機のエンジン残骸があると記されていたのを思い出す。
今ではその文献が何であったか思い出せないし、現在所有する図書や地図にその記載を探し回っても見つからない。かと言って、それを現地で確認したわけでもなく、それは私の頭の中で幻となっていた。(追記参照)
墜落現場は南アルプスの兎岳や大沢岳あたりと記載されていたように記憶していたので、富士見平で墜落事故の慰霊碑に遭遇したことは意外だった。
山岳地帯には、飛行高度判断の誤りや、故障などによってさまざまな航空機が墜落していると思うので、事故現場が複数あってもおかしくはないが、慰霊碑にははっきり戦時中に墜落したと明記されているため、私の記憶していた件にほぼ間違いないだろう。
赤石岳南東面カール状地形内から稜線を見上げる
ハイマツと高山植物等の草のコンビネーションが美しい
爆撃機はあの稜線の下あたりに墜落したのだろうか
2016年7月28日撮影
その慰霊碑には、
「旧陸軍軍用機 遭難者慰霊碑 昭和十九年四月二十五日遭難 昭和三十九年第四次遺骨整理の際建立」とある。
今ではネットに以下のようなその墜落事故についての投稿があるため、事故の概略が分かる。
明確な墜落位置は記されていないが、想像するに赤石岳(標高3120m)と、それに隣接する小赤石岳(標高3081m)を結ぶ3000m超の稜線の南東斜面に墜落したようだ。
富士見平の慰霊碑は、正にその墜落現場を見上げる位置に設置されたものと思われる。
墜落以降、しばらくその機体の残骸は放置されていたのだろう。登山者の中にはそれを目撃した人もいるだろうし、登山ガイドなどの文献などにも、しばらく記載されていたのだろう。
赤石小屋から樹林帯を抜け、森林限界を超えたところに、ハイマツで覆われた少し平らな場所が富士見平だ。そこに小さな慰霊碑がある。
搭乗者の無念を思えば合掌しないで立ち去れないが、富士見平は大きな赤石岳を目の前に、二つのカール状地形を望む絶好の展望台で、その景色の美しさに立ち去りがたい場所でもある。
富士見平のある尾根は小赤石岳から派生する尾根で、上部は冬季に登られ、ラクダの背と呼ばれるが、夏季は尾根から左に逸れて、一旦少し下って尾根下の急斜面をへつって、赤石南東面のカール状地形を登っていく。墜落現場はそのカール状地形の稜線下部であろうが、きらきらと水が流れ、さまざまな高山植物が咲き乱れるのどかな場所で、昔そのような事があったとは今では想像もできない。
追記(2016/08/06)
南アルプスに飛行機のエンジンがあるという記述がどこにあったのか、しばらく不明となっていましたが、白水社 日本登山体系「南アルプス」P251の兎洞核心部の図内、およびP252の説明の中に、兎洞源頭部にエンジンが落ちているとの説明があるのを発見しました。ネットでもこのエンジンに関する記事は少なく詳細は分かりません。わかる限りではエンジンの直径は1.5mと大型。周辺(立俣山の尾根など)にエンジン以外の物も散乱しているようです。赤石岳で遭難した97式重爆撃機のものかどうかはわかりません。
追記(2017/06/19)
東京創元社 現代登山全集 第5巻「北岳・甲斐駒・赤石」のP275の「クズレ沢」の項に飛行機の残骸があるとの記載があるのを発見した。上記の兎洞源頭部のエンジンとはまた別のものと思われる。赤石岳頂上直下のガレに残骸が散乱しているらしく、クズレ沢の源頭部であるため、山頂から見下ろすと見える可能性がある。クズレ沢は隣の北沢と同じ赤石沢の支流であるが、尾根ひとつ隔てた隣にある。この残骸が、富士見平の碑にある旧陸軍軍用機のものかは不明。
東京創元社 現代登山全集
第5巻「北岳・甲斐駒・赤石」のP275から抜粋
(熊五郎)
- なんか切ないことですね。 (agewisdom) 2016/7/31(日) 午後 4:55
- > agewisdomさん そうですね。戦時中とはいえ、搭乗者は無念だったでしょうね。日航ジャンボの件も思い出します。(熊五郎) 2016/7/31(日) 午後 5:09
- はじめまして 先日、赤石岳へ登った際、山頂避難小屋の管理人さんより、戦闘機の墜落エンジンがある場所を教えていただき、フィールドスコープで現物を目視確認しました。北沢カールの上部、山頂直下でした。エンジン以外はごく細かなパーツが少量散乱している程度に見受けられました。写真撮影するにはかなりの望遠レンズが必要になると思いますので、機会があればドローン空撮を試みてみたいと思います。[ ichi ] 2016/9/11(日) 午前 11:37
- > ichiさん 貴重な情報ありがとうございます。まだ残骸は残っているのですね。きれいに片づけられたと思っていました。もし空撮されましたら是非拝見したく、楽しみにしております。(熊五郎) 2016/9/11(日) 午後 1:02