心筋梗塞の顛末(てんまつ)

投稿日 2017年04月16日

以前から登山のたびに胸が痛くなる症状がありました。

30分から3時間程度で直ってしまうため、胸やけや、冷たい空気を吸い込んだときの、一時的な肺の痛み程度に思っていましたが、それは恐ろしい心筋梗塞の前ぶれだったのです。わたしは今こうして生きていますが、それは運がよかったと言わざるを得ません。そこで病院を退院するまでの顛末をここでお話しておこうと思います。

ただしド素人が、医学的知識ゼロで書くことですから、体験記程度と思ってください。

もし運動をすると胸やけのような胸部の痛みや、気管支や食道、肺が痛いような感じがある場合は、たとえしばらくして直ったとしても、早めに医師の診断を受けることをお勧めします。その胸の痛みは、呼吸や飲食にはまったく関係ありません。咳き込んだりすることもありませんし、痰(たん)が出たり、熱が出たりすることも、私の経験した範囲ではありませんでした。ただ、まさか心臓が悲鳴をあげているとは思ってもみませんでした。

それは、2015年の12月ごろからでした。

登山を始めるとしばらく肺の辺りが痛いと感じました。このころは初冬の朝、いきなりの急登で、冷たい空気を思いっきり吸うため、肺が痛いのだと思っていました。運動らしい運動は登山以外にしない私。登山でのみの症状だったのです。

登りながらも、その痛みは30分ほどで自然におさまりました。身体が温まり、肺も順応してくると、自然に直るのだなと思っていました。

その後の登山でも、必ずと言ってよいほど、胸の痛みが起こりました。徐々に直るまでの時間が長くなり、2016年6月に登った金峰山では、登り始めから3時間以上も痛みが続きました。このときは、さすがに同行のYさんに痛みのことを話し、心配をおかけました。それでも、なかなか直らないと思いつつも、登り続けるとやがては痛みがなくなり、普通に登れるようになりました。一度痛みがおさまると、その日は痛みが再発することはありませんでした。

今年に入って、家でエアロバイクを少し強めにやることによっても、すこし胸の痛みを感じるようになりました。このとき、「なんだ、家でも運動すれば出るのか!」と思い、何か胸の異常があるのではないかと思うようになりました。

3月に入ると、仕事のための軽作業でも痛むようになり、痛み出しては、横になり、痛み出しては横になりを繰り返していました。思えば、ここまではなんとか我慢できる痛みだったのです。

3月13日の午後、やはり作業して痛くなったので横になっていたら、いつものように痛みはおさまりましたので、そのまましばらく寝てましたが、ちょっと右を下にして寝返りをうったとたん、我慢できない痛みが始まりました。ただし胸を抱えて倒れこむような痛みではなく、意識も大丈夫で、冷静に考えることはできました。

胸を押さえつつも、比較的大きな病院の診察受け付け時間をネットで調べ、保険証だけを持って、自分で車を運転し、診察開始30分前の病院に駆け込んで緊急対応をお願いしました。今思えばよく運転できたものだと思います。誰に話してもそこで救急車を呼ぶべきだったと言われました。

症状を説明すると、病院の方はすぐに対応して下さり、医師が来るまで、私を寝かせて心電図をとってくださいました。医師が来て、なんとか会話はできましたのでくわしく説明したところ、舌下錠(ぜっかじょう)を処方していただき、すぐに処置できる大きな病院を手配していただき、救急車で搬送されました。舌下錠は心筋梗塞の場合のとんぷくのようなもので、一時的に梗塞状態を和らげる効果があるようです。携帯で妻に緊急事態を連絡しましたら、しばらくしたら来てくれました。

痛みは救急搬送されている間もおさまらず、このままあの世行きかと思ったほどでした。隣町の大きな病院に搬送され、運よく循環器系の先生がおられて、さっそく手術となりました。

まず、舌下錠のもっと強力な薬を口内にスプレーされ、衣服をすべて脱がされ、陰毛を剃られ、尿管を通され、心電図などの計測プローブを身体の各所につながれました。胸の上にはレントゲン装置のようなものがゆっくり動いていました。やがて先生の「局部麻酔をします」との声。わたしはそのときどんな処置をされるのか知らなかったのですが。右足の付け根から何かするようです。先生から足の付け根の動脈からカテーテルを心臓まで通して、心筋の血管の詰まりをとるとの説明がありました。このときはすでに痛みはおさまっていたように思います。スプレーの効果でしょうか。

何やら足の付け根でやっているなという感覚以外、心臓までカテーテルが通っているような感覚はありません。私が見える位置にもモニタがあって、血管に造影剤が流される様子がよく見えていました。右肩には女性の看護師がやさしく「痛くないですか」とか、「気分はどうですか」と尋ねてくれます。私にとっては天使のささやきにも聞こえ、気持ちが落ち着きました。

処置に1時間くらいかかったでしょうか。詰まっている部分は無事血液が通うようになったとのことです。最後に、ポンプにつながれた風船(名称は忘れました)が心臓の近くの動脈の中にセットされました。これは心臓の鼓動に合わせて膨らんだりしぼんだりして、心筋の血管にも十分血液が流れ込むようにするものとのこと。なかなかの勝れ物のようです。

その後右足にギブスのようなものがあてがわれ、集中管理治療室に移されて絶対安静(とくに右足は絶対に動かせない)となりました。これで何とか天国に行かなくても済んだようですが、血圧は上でも80台。(指先で測る)酸素の供給量も少なかったようです。胸の痛みや、動脈を切った足の付け根などにまったく痛みはなく、胸の中の風船が鼓動に合わせて、膨らんだりしぼんだりするゴロゴロという感じだけがありました。(この風船は最初心臓の鼓動に毎回同期(鼓動1回に1回)していますが、経過がよい場合は、2回に1回とか、4回に1回という具合に回数を落としていくようです) ベッドの周りは点滴だらけ。鼻には酸素吸入。指には酸素の計測装置。右足の根元からは風船のポンプへ管が延び、男性シンボルからは尿管が延びています。この情けない状態で集中管理治療室での数日が始まりました。

術後は肺の痛みはどこえやら。風船で胸がゴロゴロしているだけです。集中管理治療室に入ってから2日くらいは、腰の痛み(ずっと真っすぐの状態で寝ているため耐えがたい痛みが出てくる)と戦うことに。自由に寝返りを打てない状況は、腰に来ます。

ところが看護師さんがベッドを20度上げて見ましょうかと言われ、試しにやってもらうと、あら不思議。これまであんなに痛かった腰が、我慢できる程度に和らぎました。(20度以上は医師から禁止されているとのこと) これで夜も眠れるようになり、多くの看護師さんに入れ替わり立ち替わり丁寧に面倒を見てもらって、天国のような数日が過ぎました。

血圧が上で100を越え、酸素供給量も93%くらいと、幾分よくなりました。点滴のほかに飲み薬も処方されましたが、詳しいことは分かりません。順調に回復しているとのことで、風船が鼓動2回につき一回になり、さらに4回に1回に落されて、やがて不要になり、集中管理治療室で寝た状態で、風船が抜かれました。

風船を抜くのはゆっくり慎重にやるのかと思いきや、1m以上もあるような長い管を、スルスルと、何の躊躇もなく抜かれたときは、肝が冷えました。「先生、もうちょっとゆっくり抜いてよ」と心の中で思いつつも、後の祭り。血染めの管はすぐに処理され、はっきりは見えませんでした。集中管理治療室に居たのは5日間でした。

その後、一般病棟に移され7日間を過ごしましたが、食事は数日「心臓食」と書かれた、味気のないもの。その後は基本食になりましたが、ご想像のとおりの食事です。薬は減コレステロール薬、血液をサラサラにする薬など数種類が処方されました。これらの薬とは一生付き合う必要があるようです。採血のほか、胸のレントゲンや臓器のエコーは何度も撮られました。

一般病棟でも順調に回復し、退院後の食事についてのレクチャーと担当の先生のお話を妻と一緒に聞きました。レントゲン写真やエコー画像をみながら丁寧に説明していただきました。心臓の心筋には3本の血管で栄養や酸素が送られているが、そのうちの1本が詰まっていたとのこと。もう少し処置が遅かったら心筋が死んで最悪心臓停止もあったようです。病名は「急性心筋梗塞」。

幸い血液に出る指標値(身体の中で細胞が死ぬと増える指標で、健康な人でも数100くらいある。心筋梗塞で心臓が部分的に死ぬと9000くらいにも上がる人もいると聞きます)から判断して、心臓のダメージはゼロとのことでした。今回の心筋梗塞では一度も心臓が停止していないため、他の臓器への影響(後遺症)もないようです。ただし、3本の血管にはいずれにもまだ細い部分がいくつかあり、完全治癒ではないので登山は無理ですねとのこと。細くなった部分が残っていると、こんどはそこが詰まって再発することがあるようです。看護師さんによると心筋梗塞は再発が多い病気ですよとのこと。

助かっただけでもラッキーだったのですが、私としては登山ができないのはショック。完全治癒には先日天皇陛下もなさった血管のバイパス手術が必要とのこと。このため、手術ができる病院に変わって再入院が必要になりました。カテーテルで細くなった血管を網のような部品で広げることもできるのですが、それは高齢でもできる手術。なるべく若いうちに、バイパス手術をしておいたほうがよいとのことです。

今回、私はなんとか助かりましたが、場合によっては即死も有りうる病気です。前にも書いたように心臓には三本の太い血管がありますが、そのうち一本は受け持ち範囲が広く、その血管の付け根が詰まったりすると、命取りになる確率が高いとのこと。幸い私の場合は、別の血管の根本でしたから、心臓が悲鳴を上げつつも、止まることはなかったようです。その後も経過は順調で、3月25日に退院となりました。

以上、胸の痛みを感じ始めてから救急搬送され、なんとか無事退院に至るまでを書いてみました。血管が細くなったり詰まったりするのはある程度加齢によるところもある(若い人の3本の血管はすんなり真っすぐ延びているようでうが、高齢になるとアマゾン川のように蛇行してくるとのこと。私の血管もかなり蛇行してました)ようですが、大元の原因は高コレステロール。他にも高脂血症や塩分の取り過ぎなどが影響するようです。このため先に書いた薬を飲み続けることと、食事内容をレクチャーされた通り守って生活していく必要がありそうです。

バイパス手術については、また別途書いてみる予定です。全身麻酔から無事覚めたら!?

(熊五郎)

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コメント(2)

  • 大変でしたね。処置が適切でよかったです。先日わたくしも胸の痛みがしたので慌ててホームドクターのところに行きました。心電図も血圧も異常なし。疲れでした。「ぬるめのお風呂にゆっくりは入りマッサージに行って休んでください。」と言われてこれで直りました。でもとても勉強になりました。ありがとうございました。 2017/4/16(日) 午後 6:53
  • > agewisdomさん この間agewisdomさんに自己判断しないで医者にかかるように言っていただきましたが、忠告は聞くものでした。反省^-^;; (熊五郎) 2017/4/16(日) 午後 7:28 

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