登山のセンス:近くも遠くも 山なればいとおし
登山にはいろいろなスタイルがあります。一般的な登山に沢登り、ロッククライミングなどを加えると多種多様です。目的はいろいろあるにせよ、山に入って山そのものを味わう行為。それらを登山と言ってもいいでしょう。ただし自分の足で登ること。バイクや自転車で登っては登山と言えないと思います。
登山の軽いものはハイキング。縦走などはもちろん登山と言えますが、はっきりした境目はありません。まぁ、ハイキングは日帰りの軽い登山と言えるでしょう。
ところで、山には人が住んでいる地域に近い山、いわゆる「里山」と、山岳地帯に含まれる比較的高い山とがあります。里山は町からすぐに登れる山で標高は数100mから1000mくらいでしょうか。アプローチが短く、日帰りで楽しめる山です。山頂などから麓の街並みが見え、時には町の雑踏さえ聞こえてきます。対して一般的に本格的な登山の対象とされる山は、アプローチが遠く、標高も高いため登るのに時間がかかります。標高でいうと1500mから3000m級の山です。ただ、最近は交通の便が良くなり、3000mに近いような山が早朝発の日帰りでも楽しめるようになりました。
つまり、自分の住む場所から近い山もあれば、遠い山もあるわけです。この山までの距離はいろいろ影響があります。近くの山に日常的に登る人。まとまった休みをとって、遠い山に遠征する人。さまざまです。行動範囲を決めてしまうのがどこに住んでいるかです。私の場合は北関東ですが、周りにぐるりと山が見えています。筑波、日光、上越、北毛、西上州、秩父、奥秩父、八ヶ岳、多摩、丹沢など。富士も見えています。いずれも遠いのですが、3時間も車を走らせればほとんどの山に登れ、意外と山屋にとっては便利と感じています。都内にも出やすいですし。ところが、当たり前ですがアルプスや、白山、東北の山、関西の山となるとほとんど手が、いや足が出ません。幸い、若い時に行動範囲が広かったのでそれらも含め登っていますが、なつかしい山へ再訪したくてもなかなかできません。
若い時に登山を始めると、あまり里山には目が向かず、会社勤めもあることから、GWやお盆や正月の休暇など、まとまった休みを使ってアルプスなどに遠征し、数日間の縦走などを楽しむことが多いようです。そのころは体力も万全です。私もそうでした。そして、歳を重ねるにつれ徐々に低山に目が向いていき、日帰り登山が多くなります。仕事も引退して60歳を過ぎるころから、もっぱら里山に登り、たまに遠征という方が多いのではないでしょうか。若い頃のような高い山にはあまり登ら(れ)なくなり、対象が低山傾向となって回数が増えるという感じでしょうか。
都内などに住んでいるとどこの山に登るにせよ、一定のアプローチはかかります。交通の便が都内からを中心に考えられていることが多いので、距離の割に便利なのですが、ある程度移動に時間とお金がかかるのは事実です。日本は山が多く、街に山が迫っているところが多いので、低山がすぐそこに見えていていつでも登れるというところも多いですね。いわゆる里山と言われるいつでも登れる山がそこらじゅうにあるのも事実です。
朝起きたらすぐそこに山が見えるなんていうところに住んでいる方は幸せです。鳥の鳴き声で目覚め、さわやかな風が吹く中を、のんびりと歩き、見晴台で自分の住む街をしばらく眺め、ちょっと汗をかいて降りてくる。散歩レベルですね。そんな風に日常に山を組み入れることができる。そいう人は幸せです。そのような遊歩道が整備されているところも多いようです。
年間を通してみると、日の短い晩秋から冬、初春などはどうしても近場の低山が多くなります。春から初夏にかけて徐々に日が長くなるにつれ、新緑を追うように徐々に高い山へと移行します。最初数100mの山から始まり、1000m、1500mと新緑を追って行きます。夏になると、いよいよ遠征の季節。前日や早朝発で車で3時間くらいかかるような山がおおくなり、標高は2000m級。16時間くらいもある長い一日をフルに使う登山です。気温も高くなり低山には登れません。秋になると紅葉をさがすように高い山から低い山へ。そして初冬になれば、落葉して明るくなった山道を落ち葉を踏みながら短い一日を楽しむ。こんな感じで一年が廻ります。
いろいろ書きましたが、山には近い山もあれば遠い山もある。若い時から老齢に至る過程でそれらを登り分け、さらに季節に応じて山を選ぶ。誰もが自然にやっており、そうならざるを得ない事ですが、近くも遠くも、自分の環境と歳に合わせて山を楽しみたいものです。
(雅熊)