上信電鉄 今でも硬券
投稿日 2025年05月18日

群馬県高崎市 上信電鉄の硬券
根小屋駅から山名駅 料金180円
裏面にこの日初めて販売されたことを示すチェック・マークがある
先日群馬県高崎市の「上野三碑」(こうずけさんぴ)を妻と訪れました。三つの碑は歩ける範囲にあるのですが、「山上碑」(やまのうえひ)から「金井沢碑」(かないざわひ)は「岩野谷丘陵」(いわのやきゅうりょう)の一角の「関東ふれあいの路」を歩けば、絶好のハイキングコースにもなっています。このときは山上碑から金井沢碑まで歩き、「上信電鉄」(じょうしんでんてつ)を利用して「根小屋」(ねごや)駅から「山名」(やまな)駅までの二駅を戻りました。そして最後に車で「多胡碑」(たごひ)に向かいました。
根小屋駅にたどり着いたのが午後二時ごろ。ちょうど目の前で14:06の下仁田方面行きの電車が出ていくところでした。上信鉄道は電化されていますが単線です。根小屋駅は、かわいい駅舎でホームはひとつしかなく、上下が同じホームを使います。周りはのんびりした田園地帯。しかし上信鉄道を数駅乗れば高崎市があり、そこには新幹線も止まります。田舎ながら便利そうです。
私が在住の関東北部には「上信鉄道」のほか、「わたらせ渓谷鉄道」「秩父鉄道」などのローカル線があります。そうそう単線非電化のJR「八高線」(はちこうせん) もなかなかのローカル味があります。ほとんど利用するような事はありません。とくに上信鉄道は今回初めて利用しました。
上信鉄道は高崎駅から下仁田(しもにた)駅を結んでいます。今回利用したのは「根小屋駅」から「山名駅」の二駅区間。「烏川」(からすがわ)と並行に南下し、岩野谷丘陵の東の端をかすめて西へ向きを変え、こんどは「鏑川」(かぶらがわ)に沿って吉井、富岡、下仁田へと入っていきます。

群馬県高崎市 岩野谷丘陵に沿って走る上信電鉄
赤実線は上野三碑の山上碑から金井沢碑まで歩いたルート
さて、根小屋駅にたどり着いた我々は、出ていく電車を目の前にがっくり。あと数分早ければ乗れたのにしかたなし。
「すみません、Suica使えますか」と駅守の女性に聞いてみると、
「申し訳ありませんが、電子決済はいっさい使えません」
「そうですか、実はそれを想定して現金を持ってきました。じゃらじゃら。山名駅まで二人ください。」
と、女性の目の前で山名駅まで360円(二人分)の小銭を渡しました。
そして出されたのがなんと!懐かしい硬券(こうけん)の切符。昔、国鉄の駅で使われていた硬券より少し細身。しかし、細かい柄や印刷文字はなつかしい昔の硬券そのままです。改札鋏の切れ込みも入っています。しかも裏返してみると、赤ペンのマークが。
こ、こ、これは!この日初めて売れた切符ではないか!
「あれ!この切符は、今日初めて売れた山名行きの切符ですね?」と、女性に聞くと、
「そうです! よくご存じですね。」
「学校の先生に全国の入場券を集める趣味の人がいまして、裏面にチェック・マークのある券を見せて、よく自慢されましたので、知ってます。」
「そうですか、前の日の営業終了時の精算で、明日から販売する最初の券にチェックを入れるんですよ。」
「そうですか。むかし実家の近くのJRの駅でもらった切符がこのようにマークの入った切符だったときは、うれしかったなぁ。今、その気分です。」
「まぁ、それはよかったですね」
「これ山名駅で渡さずにもらって帰れますか?」
「大丈夫ですよ。山名駅の人に言ってください。裏にハンコを押して渡してくれますよ。」
かくして、山名駅で硬券の切符。しかも裏面にチェック・マークの入った切符を手にした私は超ご満悦状態。そういえば、先生に幸福から愛国行の切符をもらったけど、どこへやったかな?などと思い出しながら、14:36の電車に乗り込みました。
根小屋駅の駅守の女性は明るく元気な方で、かっこいい帽子が似合うほっそりした方。いろいろお話をうかがいました。高崎市という都会に隣接しながら、田舎の雰囲気がたっぷりただようこの辺り。岩野谷丘陵の山を背景に、目の前には烏川。そして広い関東平野が広がっています。どの畑も、どの家もきれいに整えられています。ここ出身ではないけれど、心の中にあるどこかのんびりした田舎。その中を走る上信電鉄の音。その音がやんだころには、野鳥のさえずりが聴こえてきます。
電車が来るたびにホームに立って出迎え、見送りをする女性。乗った我々にドアが閉まるまで何度もお礼されて、少し恐縮。手を振って別れを惜しみました。
(雅熊)