白井宿から旧十石峠道でカイト山
2023年11月20日 晴れのち雨、虹、雹のち晴れ
今年の秋は寒くなったと思っていたら、夏の終わりのように暑くなり、この時季貴重な小春日和もわずかにあったかと思うと、また寒くなりと、目まぐるしく変わります。そんな小春日和を逃すまいと出かけたのが群馬県の上野村にあるカイト山。カイト? 山名辞典を持っていたらこの山の名前の由来を教えてほしいものです。
標高1343mの岩山で、別名白板山とも呼ばれるようなので、石灰岩の山のようです。そういえばこの山の南壁は切れ落ちた白い岩壁です。埼玉から群馬のこの辺りは東西にのびるフォッサマグナの終端地で、秩父辺りで大きく蛇行。そこには付加体として積み上がった、チャートや石灰岩という海由来の岩が積み重なっているようです。このため遠くは武甲山から毘沙門山、二子山、叶山と直線状に続く石灰岩の岩脈なのでしょう。1憶年、2億年とその自然の歴史は流れていますが、それを手で触れて登ることに感激しないわけにいきません。
今回のルートはカイト山に登ることもさることながら、その前の白井宿とそこから十石峠(じっこくとうげ)へとつながっていた旧十石峠道を歩いてみることも興味の一端でした。十石峠を越える道は群馬県の上野村と長野県の佐久を結ぶ道で、関東北部から軽井沢方面へと大きく弧を描く中山道に対して、直線的に上州と信州を結ぶ中山道の裏往還として使われたようです。今では十石峠を国道299号が通り、昔の道はほとんど失われているようですが、群馬側の白井の集落からわずかな距離の旧十石峠道が残されています。その道は奥に行くほど道形はなくなり、踏み跡も落ち葉の下に消えようとしていますが、点々と残る石仏だけが往時をしのびます。
車を鬼石町から国道462号を走らせ、万場の街を過ぎて299号になった道をしばらく走ると上野村の最奥部。ここからは299号も細くなり十石峠を越えますが、車でも容易ではありません。幸い上野村川の駅という施設があって、釣り客でにぎわうようですが、広い駐車場とトイレをお借りして出発。100mほど上の白井の集落はのどかに陽が差し、お年寄りが高い柿の木にハシゴをかけて収穫の真っ最中。どこからか漂う薪の燃える匂いも懐かしく、休息所で一休みしてこれからの行程を占います。
集落の上には神社があって、軽く手を合わせていよいよ旧十石峠道へ入りました。この道、最初はよいのですが、奥へ行くほど道形は細くなり、やがては無くなり、落ちると命取りというような斜面で足場を作りながら前進。そこにたっぶりの落ち葉が踏み跡さえも隠しています。
矢弓沢林道とつかず離れずしていた道はやがて小尾根に乗って、矢弓沢林道の上部に出ます。ここまではかろうじて残っている旧十石峠道で、あとは林道でカイト山の下まで登ります。林道が屈曲して向こう側が見える見晴らしのよいところに石仏が三体鎮座しています。その前の窪状から藪をかき分けて尾根に取付きます。やがてうまく尾根に乗って陽当たりのよい唐松の道を進むと今度は馬頭尊がよく来たなというお顔で立っています。そこから急登となり露岩を登って、エッジを渡ればカイト山の山頂です。
下の林道を歩いていた時は雨が降っていたのに、山頂に着けば見事に晴れ上がり、おまけに虹でも見ていけと言わんばかりに、眼下に渡る見事な虹。西上州から山中、信州との県境の山が並ぶ大展望。普段は西に見る両神山を東に眺め、その脇に付き添うように二子山。両神の肩には武甲山が覗いています。
下山は石仏三体まで下り、時間もあるので矢弓沢林道をとぼとぼ歩くことにしました。
最近の山村は空き家が多くなり、耕されなくなった斜面の畑にもススキが揺れています。上州と信州を結んだ十石峠の道も往時をしのぶものは石仏のみとなりました。。わずかに残された古道は今少しずつ消えようとしています。峠の向こうには青い空。小春日和の明るい林床に落ち葉に覆われた細い径を辿る山旅でした。
群馬県多野郡上野村川の駅から白井、旧十石峠道でカイト山
下山は矢弓沢林道を利用
赤実線:歩行GPS軌跡
(国土地理院電子国土地図に情報追加)
主な通過時刻:
上野村川の駅駐車場 8:03
白井の休憩所 10:18
切通し 11:47 (昼食)
石仏 13:04
旧十石峠道終点(林道に出る) 14:13
石仏三体 14:49
カイト山山頂 15:22
石仏三体 16:20
この間矢弓沢林道
上野村川の駅駐車場 17:22
所要時間:6時間
総歩行距離:16.1km
上野村川の駅から国道299号を歩き
黒川にかかる橋を渡って進むと白井への分岐がある
(右上へと入る)
白井(しろい)の集落
昔はここに関所が設けられ、市も立った
十石峠を越えた信州佐久からの米と上州の眉や炭がやりとりされた
白井の集落から旧十石峠道に入る
はじめは幅が広く、道形ははっきりしている
路傍の石仏
旧十石峠道だがこの道で一日十石(1500kg)もの米が運ばれたとは信じられない
このような石仏だけが往時をしのぶ
旧十石峠道に並行して走る矢弓沢林道
手の届きそうに接近する
下山はこの林道を利用した
旧十石峠道もこの辺りになるとかなり怪しくなる
落ち葉を払いのけるとかろうじて踏み跡が現れる
ここは真っすぐ進み、先で左から降りてくる小尾根に乗る
旧十石峠道の終点(上にガードレールが見える)
道は矢弓沢林道で分断され、ここから先は林道を歩く
矢弓沢林道の脇に石仏が並ぶ
この辺りを十石峠道が通っていた証拠
石仏の前から林道と分かれて尾根に取付く
溝状になったところを藪を分けて入る
溝状から作業道のようになり、途中から尾根筋に乗る
カイト山山頂手前の岩稜
これを超えるとエッジ上の細い岩稜となり山頂へと導かれる
カイト山山頂
山頂はエッジ状の続きで狭い
展望は申し分なく、西上州、山中、信州県境の山々は一望
この日は複雑に天気が変化した
山頂に向かう間は雨、その後突然晴れ、山頂に立った時は虹が出た
下山して林道を歩いていると雹が降り始め、その後晴れた
虹の辺りは西上州黒川峠、烏帽子山、シラケ山付近
カイト山山頂から東を望む
両神山、二子山。両神山の方には武甲山が覗く
(雅熊)