大ナゲシはどこから見えるか

投稿日 2019年02月04日

大ナゲシは埼玉県秩父市と秩父郡小鹿野町にある両神山の近くにある岩塔のひとつです。そのあたりは群馬県との県界にも近いため、大ナゲシは群馬県上野村に属します。

両神山は日本百名山ですからご存じの方も多いでしょう。この山域の地質は秩父帯に属し、チャートや石灰岩などで構成されますが、とくにチャートは堅いため、両神山のように切立った岩稜となります。大ナゲシもそのひとつですが、独立した鋭い三角形の岩塔で、自己主張しているかのように聳えています。

両神山の稜線の一角にある赤岩岳からの大ナゲシ
最も近くで見られるポジション
2015年5月23日撮影

この大ナゲシは隣の赤岩岳 標高約1570mからのもので、ほぼ同じ高さと言えます。距離は約700mで、大ナゲシを眺めるには最も近い展望台です。

大ナゲシの山頂には三等三角点が設置され、点名は大ナゲシではなくなぜか高祖山。標高は1532.25mです。チャートの岩塔ですが、クサリが掛けてあって容易に登れます(高所恐怖症の方は注意)。次はその大ナゲシ山頂からの眺めを楽しんでください。関連記事:西上州 大ナゲシからの展望(山名入り)

大ナゲシ山頂からの眺め
中央が赤岩岳 その奥が両神山の稜線です
両神山の左側と城峰山に挟まれたところが秩父盆地です。
両神山の右は奥秩父の山々です。
2010年6月7日撮影

中央が最初の写真で大ナゲシを眺めた赤岩岳です。この山頂からのパノラマを見た限りでは、大ナゲシは秩父盆地からや、奥秩父の山々からも見えること分かります。このパノラマでは分かりませんが、赤久縄や御荷鉾の稜線。遠くは浅間山も見えています。では大ナゲシはどこから見えるか地図上で確認してみましょう。下の可視マップをご覧ください。

大ナゲシ(ほぼ中央の赤点)の可視マップ
ピンク色のエリアが見える場所

上はカシミール3Dで作成した可視マップです。ほぼ中央に大ナゲシ(赤点)があり、周りの山々で大ナゲシが見えるところはピンク色になっています。

浅間山南面、赤久縄・御荷鉾の南面、秩父盆地の北部、秩父盆地の東部、関東平野北部、奥秩父、八ヶ岳などから見えていることが分かります。ただし実際どの程度の大きさで見えるのか、つまり山頂の一部のみなのか、全体なのか。肉眼でみえるのか、双眼鏡でやっと見える程度なのかなどは、現地に行って確認しないとわかりません。とくに一部しか見えない場合は、気付かないことが往々にあります。

このマップの範囲を地形的に考えると、大ナゲシは大きな両神山で隠されて秩父盆地の南側の山域(武甲山や外秩父の山々)からは見えません。また、群馬県側からは赤久縄と御荷鉾山の稜線が高いので隠されます。城峰山も遠くからの眺めを遮っています。ということで見える範囲は秩父盆地の山中地溝帯と言われる溝を利用した遠望と、赤久縄と御荷鉾山の稜線南面、父不見山のある稜線の南面が有望となります。

では各地からどのように見えるでしょうか。

宗四郎山から。大ナゲシから約2km。

宗四郎山からの大ナゲシ(三角のピーク)
右奥は赤岩尾根から両神山
2016年5月7日撮影

両神山からの稜線は赤岩岳からいくつかのピークでアップダウンしながら高度を落としていきます。宗四郎山はそのピークのひとつです。写っている右側の稜線は両神山から延びており、左は群馬県。右は埼玉県秩父市です。右の谷合に秩父鉱山があり、昭和中ごろまで鉱山で働く人たちがこの稜線にある赤岩峠、雁掛峠、六助峠、山吹峠などを越えました。大ナゲシはこのように県界稜線から群馬県側に寄ったところにあります。

大山から。大ナゲシから約2.8km。

大山からの大ナゲシ
赤岩岳、P1483がある稜線が群馬県と埼玉県の県界
大ナゲシは群馬県寄りにある
2016年6月4日撮影

大山は赤岩岳とは逆に西側から大ナゲシを眺めるよい展望台です。大山も大ナゲシと同じ三角形の岩塔です。標高は1540mと、大ナゲシとほぼ同じです。ここのよい点は、写真では左に切れていますが、大ナゲシ北西稜も含めてよく見える点です。バックに赤岩尾根や両神山が控えています。

諏訪山(志賀坂)の近くから。大ナゲシから約3km。

諏訪山(志賀坂)付近からの大ナゲシ
先の宗四郎山とは真逆になります。
大ナゲシの肩にある出っ張りが左にあるのがわかります。
左端は両神山です 2016年5月23日撮影

諏訪山はあまり目立たない両神山近くのピークです。しかしこの写真のように大ナゲシが美しく見えます。

二子山(標高1166m)から。大ナゲシから約6.2km。

両神山のお隣 二子山からの大ナゲシ
二子山からは両神山が立派に見えます。
その中にちょっと脇役ですが大ナゲシも仲間入り
2011年5月21日撮影

両神山と大ナゲシはチャートの山と岩塔です。それに対して二子山は石灰岩の山。隣接していますがまったく岩質が異なるのです。しかし生まれたのは1億から2億年前の太平洋の深海。それが日本にぶつかって付加体として取り残されたのがこれらの山々です。しかし堅いチェートの山が残るのは分かるのですが、雨で浸食されやすい石灰岩の二子山が今もこんなに高く聳えているのはなぜでしょうか。

父不見山西山腹の林道から。大ナゲシから約10.5km。

父不見山(ててみえずやま)の西山腹にある林道からの大ナゲシ
二子山の間(股峠)にポツンと見えている(小さな三角形)
2018年11月1日撮影

この大ナゲシは偶然でした。二子山に登った帰り、土坂峠へ通じる林道が父不見山の山腹を通過するとき、大ナゲシか?と気付いて急ぎ車から降りて撮影しました。左のギザギザの稜線は両神山です。二子山の西岳と東岳の間(俣峠)から覗いています。

宝登山山頂から。大ナゲシから26.6km。

秩父郡長瀞町 宝登山(ほどさん)からの大ナゲシ
中央の台形の山は両神山
その右横にちょこんと大ナゲシが写っています。
2019年1月30日撮影

27kmくらい離れるとかなり小さくなります。右から下がって来ている尾根は城峰山の尾根ですが、この尾根がもう少し高ければ見えません。宝登山に登った人は「あれが両神山かぁ」と歓声を上げますが、大ナゲシに気付く人は少ないでしょう。

釜伏山付近の尾根から。大ナゲシから約32km

釜伏峠を越えて秩父側の平草という集落からの大ナゲシです
中央に両神山が見えています。
その右、一段下の小さな小さな三角形が大ナゲシです。
2019年1月16日撮影

この景色は熊谷の中山道から熊谷みち(秩父札所巡礼に使われた古道)を登って釜伏峠を越え、初めて秩父の地を見たときに、最初に目に飛び込んでくる景色です。両神山も信仰の対象でしたからここで両神山を拝んだ人も多かったでしょう。両神山は離れれば関東平野からでも見えますが、大ナゲシは低く小さいため同定は無理でしょう。

西御殿岩から。大ナゲシから約20km

奥秩父 唐松尾山近くの西御殿岩からの大ナゲシ
両神山を南側から眺めている
稜線が西に向かって徐々に低くなっていく中に
大ナゲシが見えている
2018年5月5日撮影

北を向いています。私にとって両神山を南から眺めるのは珍しく、そのため最初は両神山自体に気が付きませんでした。なにやら説明できない山が見えている。よく見ると、それは両神山でした。あのキレットのようなへこみは赤岩峠。そうするとあのピークは大ナゲシ。感激の一瞬でした。

白髪岩 原三角点(南側の岩場)から。大ナゲシから約12km。

原三角点のある白髪岩南側の岩壁上からの大ナゲシ
2015年12月9日撮影

先の奥秩父西御殿岩から真逆の位置からの眺めです。南を向いています。朝靄の中に両神山や二子山が浮かんでいます。両神山から西に向かって稜線が除々に高度を下げて行きます。その中に大ナゲシがぽつんと突き出ています。

日影山の西P1318から。大ナゲシから約12km。

日影山の西P1318からの南方向パノラマ
左端の両神山から西へ延びる稜線が見えている
2017年11月9日撮影

日影山はマイナーなイメージの山。訪れる人はほとんどいません。その日影山から更に人気の少ない塩之沢峠へと向かいました。この稜線には標高1318mの小ピークがあり、南側が開けています。両神山から西に延びる稜線が一望のもと。大ナゲシが可愛く見えていました。この展望はさびしい山のおまけです。

このほか、
浅間山 (高)
御荷鉾山 (低)
秩父小鹿野の美の山 (低)
城峰山 (低)
雲取山 (中)
甲武信ヶ岳 (中)
八ヶ岳 (高)
白泰山 (中)
関東平野北部の伊勢崎、本庄あたり (高)

()は難易度

からも同定してみたいものです。

(熊五郎)