あの娘はいまごろ 赤道直下でのロマンス

 投稿日 2017年12月19日

バリ島 ヒンドゥー教の寺院

もう20年以上前のことである。

私が勤めていたのは今でいうIT系で外資系の会社だった。

本社はアメリカだが、世界中に支社があった。

年に一度、各国の支社のその年の成績に貢献した営業と技術の人間が、地球上の一点に集められて慰労パーティーが行われた。

ある年、アジア圏支社のその慰労パーティーはインドネシアのバリ島で行われた。

私は幸運にも技術担当として選ばれた。

往復の旅費とリゾートホテルの宿泊費は会社から出た。

このときもまた、私の虫が騒ぎだした。

二泊の予定だったが、更に二泊追加して、バリ島を楽しめるように計画した。

リゾートホテルはプライベートビーチがある豪華なホテルで、庭は赤道直下のトロピカルな雰囲気に満ちていた。

一人で泊まるにはもったいないような広い部屋の中央に果物が盛ってある。風呂は寝室とは色ガラスのしきいがあるだけで、床に直接バスタブが置いてある。

窓には今にも部屋に侵入せんとばかりに、ツタのような植物が絡まっていた。

日本とは違い、赤道直下では植物の勢いがまったくちがう。私は寝る前に、窓際の植物が夜中に部屋に侵入して襲われるのではないかと、本気で思ったほどだ。

パーティーは無事終わり、二日目にラフティングを楽しんだ後解散となった。私は翌日現地のガイドを雇って島内を案内してもらうことにした。

ガイドは日本人の案内には慣れていた。街中を走り、ヒンドゥー教の寺院を訪れた。

暑いので何か飲みたいが、道路わきの店で売っている飲み物はどれも冷やしていない。ただ、並べてあるだけ。買って飲む気はしない。

日本のように田んぼがある。非常に細かな段々畑が見事だった。面白いのは田植えをしている横の田んぼで、稲刈りをしていることだ。バリ島では年中稲が実るらしい。

道端では、石の台の上で死んだ人を荼毘(ダビ)にふしている。火葬場のような建物はない。単に石の台があるだけだから丸見えだった。その横で子供が遊んでいる。

最後の日、私はバリ島では有名な山「キンタマーニ山」に案内してもらった。山と言っても装備は何も持っていないため、登山ではなく車で登っただけだ。名前がユニークなので、この山にだけは絶対に登って見たいと思っていた。

山頂付近には展望所を兼ねたレストランがあった。観光客が着くと、子供たちが、寄ってたかって何かを売りにくる。買おうものなら、他の客に付いていた子供も来て、ひとつの人の塊ができる。これには参った。

レストランで食事をして、展望のよいテラスで景色を楽しみながら佇んでいると、ウェイトレスの女性が近づいてきて、私の横に並んだ。まだ若い娘だ。バリ島の女性はやさしい顔をしているし、話しかけやすい。インドネシア語はわからないので、片言の英語で話しかけた。

「日本では桜という花が咲くが、見たことあるかい?」

代わりにバリ島の花を教えてもらったが忘れてしまった。

日本のことをいろいろ話した。逆にバリでの生活についても聞いてみたが、通じなかったのか、何一つ分からなかった。

その娘は、一度日本に行ってみたいと言っていた。

金と暇さえあれば、すぐにでも日本に連れて行って案内してあげたかったが、そうもいかない。彼女は仕事中なので、もっと話していたい気持ちをおさえて、別れた。

とてもチャンティーな女性だった。

(熊五郎)

コメント(2)

  • 熊五郎さん、結構まめな方なんですね。フフフ (agewisdom) 2017/12/19(火) 午後 10:12
  • > agewisdomさん はい、ここぞというときにパワーが出るほうです。(熊五郎) 2017/12/20(水) 午後 7:14

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