雪山での出来事 私のトラウマになったロマンス

 投稿日 2017年12月15日

大河原峠付近を行く

全国に山スキーのルートは数え切れないほどある。いや、雪が積もって滑降可能であれば、どこでも滑るのが山スキーかもしれない。

私はある年の冬、まだ正月気分が残っているような新年早々、彼女を北八ヶ岳の山スキーに誘った。

日本ピラタスのロープウェイを利用し、標高2233mの坪庭から縞枯山荘の前を通過して、雨池峠から林道を双子池ヒュッテ、大河原峠へと辿り、そこから竜源橋まで天祥寺原を滑降して、林道をロープウェイの駐車場まで戻る計画である。

日帰りを予定していた。

ところが、そうはいかなかったのである。

彼女は山スキーの装備を持っていないため、普通のゲレンデスキーのいでたちだった。

私の山スキー用のスキー板は踵(かかと)が上がって歩けるようになっている。登山靴でも装着できる。ただし、逆にゲレンデスキーのように足がスキー板にしっかり固定されないため、滑るのは難しい。

ロープウェイの山頂駅に降り立った我々は雪の多さに驚いた。雪を見に来た客がちらほら。ちょっと雪と戯れて帰って行くが、我々の行程はまだ遠い。

縞枯山荘も深い雪に埋もれていた。雨池峠からの林道はほとんど水平だ。先行者はいない。このため、我々は新雪をスキーでラッセルしながら進んだ。

延々とラッセルし続け、時間ばかりが過ぎて行った。彼女の歩みは遅い。ゲレンデスキーだから仕方ない。

やがて雪が降り始め、戻るのも危険と考えた我々は、双子池ヒュッテを探した。

冬季無人のヒュッテは林道から少し離れた高台にあった。

柔らかい新雪はスキーでもなかなか登れない。数十メートルの高さを1時間も悪戦苦闘しただろうか。幸い双子池ヒュッテが目の前に現れ、ホットした。

冬季の解放部屋に入った。双子池は全面凍結していた。雪は夜中じゅう降っていた。彼女はストーブの横で丸くなっている。日帰りの予定だったので、食糧に大したものはなかった。

翌朝幸いにも雪はやんでいた。昨日悪戦苦闘した場所はわずかにそれとわかるほどに新たな雪が覆っていた。

ヒュッテから林道に戻り、大河原峠へと向かった。

ここでロープウェイに戻るという判断もあったと思う。しかし双子池ヒュッテはどちらかというと大河原峠に近く、アップダウンもさほどではない。大河原峠に着けばあとは雪原を滑降するだけだ。そう考えたのだろう。

昨夜降った雪もかなりの量だったようだ。昨日よりもラッセルがしんどい。スキーでも3,40cm潜るだろうか。

やっとのことで大河原峠に着いた我々は、いざ滑降と思っていたものの、傾斜の緩い天祥寺原は、深い新雪で思うように滑ることができない。しかも下半分は沢筋で狭くなり、滑降は無理なのでスキーを外して歩かなければならなかった。

彼女は疲れ果てた。黙々と下を向いて歩く姿は痛々しい。

私は悩んだ。私が先に竜源橋まで下り、林道を歩いてロープウェイの駐車場に戻り、車を竜源橋まで持ってきた方がよいのではないかと。

私はそれを実行した。「竜源橋までなんとか歩いてくれ。」そうすれば暖かくした車で迎えられる。そのことだけが頭の中でいっぱいだった。

スキー板を迎えに来るという意思表示のために雪に刺し立てておいた。

竜源橋から凍結した林道を歩いていると、4WDの車が通りかかった。そしてその車は私の数メートル前で停車した。どこかからの帰りの車だった。車には男女が乗っていた。ドアを開けた女性は「どこまで行くんですか? よかったら乗りませんか。」と声を掛けてくれた。

まだロープウェイの駅までは数キロある。説明すると、わざわざ駅に寄ってくれるという。男性のほうは気に食わない顔をしていたが、女性のほうは女神のような人だった。これが幸いした。

暗くなった駐車場で雪をかぶった車の中から自分の車をを探した。車は見つかったが今度はキーの差し込み口が凍っていて入らない。仕方なく駅の自動販売機で温かい缶コーヒーを買い、キーの氷を溶かしてようやくドアが開き、エンジンがかかった。

竜源橋に戻ったが彼女はまだ着いていなかった。

私は急いで自分のラッセルの跡を戻った。数十メートル入ったであろうか。彼女は下を向いたままとぼとぼとこっちに向かってきた。私は胸をなでおろし、彼女を暖かい車内へと入れた。彼女が無事であったことに感謝した。

このことは今でも私のトラウマになっている。私の心の奥底で自分だけでも助かりたいと思っていたのではないかと。

今でも考える。

雪の多さを判断して中止にできなかったのか

彼女の装備を考えたら、時間がかかることは分かったはず

双子池ヒュッテから戻ったほうがよかったのではないか

もし双子池ヒュッテが見つけられなかったら、確実に遭難しただろう

最後に彼女を残して車をとりにいった判断はよかったのか。

結果的に我々は助かったが、新雪の山を日帰りで踏破するには計画が甘すぎた。いまでは会えない彼女。あの時の事を思い出すことはあるだろうか。

......

薬師丸ひろ子の「Wの悲劇」でも聴いてみるか。

(熊五郎)

コメント(2)

  • 私なら、一番最初の時点であきらめて欲しいと想うのではかしら?山やスキーへの想い次第ですが、(agewisdom) 2017/12/15(金) 午後 5:59
  • > agewisdomさん こんな経験をして、今の自分があるって感じでしょうか。(熊五郎) 2017/12/15(金) 午後 10:07 

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